「ISO(国際標準化機構) 9001の認証があれば、分析結果の信頼性も証明できる?」「ISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議) 17025の認定を受ければ、試験室のすべての測定が認定対象?」――どちらも、そのままでは正確ではありません。
ISO/IEC 17025は、試験・校正を行うラボラトリが、技術的に妥当な結果を継続して出すための能力、公平性、運営について定める規格です。認定機関はこの規格などを基準に、申請した試験・校正の範囲を審査します。一方、ISO 9001は業種を限定しない品質マネジメントシステムの規格です。この記事では、両者の関係を化学分析の実務に置き換えて整理します。ISO:ISO/IEC 17025:2017/ISO:ISO 9001:2026
まず結論:違うのは「何を確かめるか」
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| 比較する点 | ISO/IEC 17025 | ISO 9001 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 試験・校正を行うラボラトリ | 業種を問わない組織の品質マネジメントシステム |
| 中心となる問い | 定めた範囲の試験・校正で、妥当な結果を出せるか | 製品・サービスを一貫して提供し、仕組みを改善できるか |
| 外部評価の呼び方 | 試験所・校正機関の認定 | 品質マネジメントシステムの認証 |
| 技術的な証拠 | 方法、要員、設備、計量トレーサビリティ、不確かさ、結果の妥当性の確保などを評価 | 測定管理を含む品質の仕組みを評価するが、個々の分析法の技術能力を17025と同じ形で認定するものではない |
| 対象範囲の読み方 | 認定範囲に記載された試験・校正を確認する | 認証された組織・事業所・活動の範囲を確認する |
ISO/IEC 17025にはマネジメントシステムの要求も含まれます。ISO 9001認証を受けた試験室でも、そのことだけでISO/IEC 17025の技術要求や認定範囲の審査が済むわけではありません。逆に、ISO/IEC 17025の認定を受けるために、別途ISO 9001認証を取得することが一律に必須というわけでもありません。ISO・ILAC(国際試験所認定協力機構)・IAF共同声明/JAB(日本適合性認定協会):試験所・校正機関
2026年時点の版を確認する
ISO/IEC 17025は2017年版が現行で、ISOは2023年の確認後もこの版を掲載しています。ISO 9001は2026年版が2026年9月に発行されました。古い解説にある「ISO 9001:2015」をそのまま現行版として扱わず、規格の版と、認証の移行状況を分けて確認します。ISO:ISO/IEC 17025の版情報/ISO:ISO 9001:2026の発表
試験結果が届くまでに、何を支える規格か
たとえば水中の鉛をICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)で測定して「0.012 mg/L」と報告する場面を考えます。数値の表示だけでは、その値を判断に使えるか分かりません。試料の受入れ・保存、適切な方法と濃度範囲、分析者の力量、標準液や設備の管理、妨害とブランク、品質管理試料、測定不確かさ、報告内容がつながって初めて、結果を説明できます。
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| 仕事の段階 | ICP-MSの例 | 問い合わせや審査で説明する証拠の例 |
|---|---|---|
| 依頼を受ける | 対象元素、試料、水質、必要な定量下限を確認 | 依頼内容、選んだ方法、適用範囲 |
| 測定を準備する | 前処理、標準液、天秤・ピペット・装置を管理 | 手順、力量記録、設備記録、標準液の情報 |
| 結果を確かめる | ブランク、認証標準物質や添加回収、内標準を確認 | 管理結果、異常時の処置、必要な不確かさ評価 |
| 報告する | 単位、方法、結果、必要な付帯情報を示す | 結果の追跡ができる記録と試験報告書 |
この表は要求事項の全文や必須記録の固定リストではありません。どの証拠が必要かは、試験・校正の活動と認定範囲に照らして判断します。化学分析の分析法バリデーションの目的や真度は、この流れのうち「方法と結果が目的に適うか」を掘り下げた記事です。
「認定」は試験室のすべての測定に付くわけではない
認定の単位は「ISO/IEC 17025の看板を掲げた組織の全業務」とは限りません。認定範囲に書かれた活動が重要です。たとえば、ある試験室が「飲料水中の鉛のICP-MS試験」で認定を受けていても、その情報だけで「土壌中の鉛」「食品中のヒ素」「GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)による有機溶剤」まで認定済みとは判断できません。実際の記載の粒度や条件は、認定機関が公表する認定範囲で確かめます。JAB:試験所・校正機関の認定
依頼者側も、試験室の認定番号だけではなく、対象試料、測定対象、試験方法、測定範囲が自分の依頼に合うか確認すると誤解を減らせます。認定外の試験を行えないという意味ではありませんが、認定された結果として表示できる範囲とは区別します。
日本で使う版と適用文書を区別する
国内で参照される対応規格はJIS(日本産業規格) Q 17025:2018です。JABの校正機関向け公開文書RL370:2025も、ISO/IEC 17025:2017とJIS Q 17025:2018を引用しています。これは版の対応を確認する資料であり、校正機関向け文書の要求がすべての化学試験所へそのまま適用されるという意味ではありません。JAB RL370:2025(適用範囲・引用文書)
実務では、①契約・公定法が指定する規格と版、②認定機関・制度が指定する基準と補足文書、③実際に採用した試験手順、を分けて記録します。製品評価技術基盤機構(NITE)の計量法校正事業者登録制度(JCSS)公開文書一覧も、共通要求と校正分野ごとの指針を分けています。国際規格の新しい版が出たことだけで、国内の契約や認定の適用版を自動的に置き換えないでください。NITE:JCSS公表・公開文書
ISO 9001認証がある試験室では、どう関係するか
ISO/IEC 17025のマネジメントシステムには選択肢AとBがあります。Bは、ISO 9001に従って構築・維持されたマネジメントシステムを利用する考え方です。ただし、どちらを選んでもISO/IEC 17025の技術的な要求は残ります。ISO 9001の認証書を見せるだけで、方法の妥当性や要員の力量の説明が不要になるわけではありません。JAB:ISO/IEC 17025改定の概要/ISO・ILAC・IAF共同声明
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| 試験室の状況 | 次に考えること |
|---|---|
| ISO 9001認証がある | 認証の対象範囲が試験室の活動を覆うか確認し、17025の技術要求との対応を整理する |
| ISO 9001認証がない | 17025のマネジメントシステム要求を満たす仕組みと、技術能力の証拠を整える |
| ISO/IEC 17025認定がある | 認定範囲を確認し、範囲外の活動やISO 9001認証の有無と混同しない |
よくある誤解を三つに分ける
- 「ISOが試験室を認定する」:ISOは規格を発行します。試験室の認定は認定機関が行います。
- 「ISO 9001認証があれば分析法の能力も認定済み」:品質管理の仕組みの認証と、特定の試験・校正の能力の認定は別です。
- 「17025認定なら全項目の報告書に認定を表示できる」:表示できる活動は、その試験室の認定範囲と認定機関の規則を確認します。
これから学ぶ順番
このシリーズでは、「結果にどんな幅があるか」を考える測定の不確かさと、「何を基準に値をつなぐか」を考える計量トレーサビリティを続編で解説しています。既存の特異性、精度、定量下限・検出下限の記事は、個々の分析法の性能を理解する助けになります。
要点は、品質を管理する仕組みと、定めた試験で信頼できる結果を出す能力を、別々に確かめることです。 認定の有無を調べるときは、規格名だけでなく認定範囲まで読みます。