分析結果が「10.0 mg/kg」だったとき、その値をどのくらいの幅をもって読めばよいのでしょうか。測定の不確かさは、測定結果に合理的に結び付けられる値のばらつきを、根拠とともに表すものです。数値が怪しいという意味でも、分析者の失敗の大きさでもありません。BIPM(国際度量衡局):JCGM(計量関連ガイド合同委員会) 100:2008

この記事では、まず「誤差」「精度」との違いを整理し、次にICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)で土壌中の鉛を求める説明用の計算例を、元試料への換算から拡張不確かさまで一段ずつたどります。最後に、GC(ガスクロマトグラフィー)・LC(液体クロマトグラフィー)や分光法へ読み替える際の注意点を示します。実際の不確かさは、試料・方法・濃度・目的ごとに評価してください。

まずは「10.0 ± 0.8 mg/kg」の読み方

中心の測定値10.0 mg/kgと、拡張不確かさ0.8 mg/kgによる表示範囲を示す数直線
10.0 ± 0.8 mg/kgは、測定値と拡張不確かさを一組で示す説明用の例です。

「10.0 ± 0.8 mg/kg(拡張不確かさ、k=2)」は、測定値10.0 mg/kgと、その周囲の幅0.8 mg/kgを報告する形です。単に「真の値が必ず9.2~10.8 mg/kgにある」という断定ではありません。k=2を選ぶ理由、分布、自由度などによって、その区間の包含確率の解釈は変わります。 一般に約95%と説明されることがありますが、どんな測定でも自動的に95%になるわけではありません。BIPM:GUM(測定における不確かさの表現のガイド)の拡張不確かさ

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用語この例での値意味
測定値10.0 mg/kg試料の鉛濃度として得た推定値
合成標準不確かさ u_c約0.39 mg/kg寄与を標準偏差に相当する尺度へそろえて合成した幅
包含係数 k2合成標準不確かさを拡張するために選んだ係数
拡張不確かさ U約0.8 mg/kgU = k × u_c。報告時に付ける幅

誤差、精度、定量下限と混同しない

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言葉問い注意点
誤差参照値などとの差はどれほどか真値は通常、厳密には分からない。観測された差と不確かさは同義ではない
精度繰り返した値はどれほど散らばるか不確かさの重要な材料だが、校正や回収などを含む全体とは限らない
定量下限どの低濃度まで定量できるか不確かさと関係するが、同じ数値ではない
測定の不確かさ報告値にどんな幅を付けるか繰返し、校正、前処理などの重要な寄与を見落とさない

既存の精度、真度、定量下限・検出下限を読んでおくと、各寄与の意味がつかみやすくなります。

どこから不確かさが入るのか

土壌の採取、分解、秤量、定容、標準液、ICP-MS信号から最終濃度に寄与が集まる図
試料から報告値までをたどり、重要な寄与を拾います。同じ変動を二度数えないことも大切です。

化学分析では、天秤やピペットの仕様だけを足せば完成、とはなりません。試料の不均一さ、分解と回収、標準液、検量線、ブランク、装置の繰返し、日や分析者の違いなどから、対象の方法にとって重要な要因を選びます。試験室内の精度・回収データを使う方法も、個々の操作をモデル化する方法もあります。Eurachem/CITAC:化学分析の不確かさガイド/JAB(日本適合性認定協会):試験における測定不確かさ評価の実践ガイドライン

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データの出どころ取り出せる情報の例確認したいこと
繰返し・日間の管理試料方法のばらつき試料調製から測定まで、どの工程が実際に含まれるか
認証標準物質・添加回収偏りと回収の情報マトリックス、濃度、認証値の不確かさが適切か
標準液・校正証明書値付け・校正の情報有効期限、希釈、トレーサビリティ
天秤・体積器具秤量・定容の情報実際の使用範囲、温度、繰返し操作

繰返し実験の統計から評価するものをタイプA、校正証明書・仕様・過去の知見などほかの情報から評価するものをタイプBと呼びます。Aが「偶然誤差」、Bが「系統誤差」という分類ではありません。同じ要因でも、利用できる根拠に応じて評価法を選びます。BIPM:JCGM 100:2008

計算例:ICP-MSで土壌中の鉛を求める

以下は計算の手順を示す架空の数値です。試料の代表性、共分散、低濃度での非対称な分布などを省いた単純な例であり、そのまま別の分析法の不確かさとして使えません。

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入力値単位
土壌の秤量値 m0.500g
分解後の定容量 V50.0mL
ブランク補正後の測定液濃度 c0.100mg/L
追加希釈倍率 D1倍
回収補正係数 F1.00倍

元試料の濃度は「測定液濃度 × 定容量 × 希釈倍率 × 回収補正係数 ÷ 試料質量」です。この例では補正係数の最良推定値を1.00と置き、その不確かさを後で考えます。単位をkgとLへ直すと、0.100 mg/L × 0.0500 L × 1 × 1.00 ÷ 0.000500 kg = 10.0 mg/kg。濃度換算を詳しく見たい場合はICP-MS/OESの測定値をmg/kgへ換算する方法も参照してください。

1. 各寄与を同じ「相対標準不確かさ」にそろえる

この例では、下表の値が既に標準偏差相当の相対標準不確かさとして評価済みだと仮定します。校正証明書に拡張不確かさが載っているなら、その値をそのまま表へ入れず、記載された包含係数などに従って標準不確かさへ戻します。

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寄与相対標準不確かさこの例に含むもの
測定液濃度 c3.0%信号の繰返し、検量線、標準液、ブランク補正を含む評価
回収補正係数 F2.0%回収評価から見積もった補正係数の不確かさ
試料質量 m1.0%秤量結果の評価
定容量 V1.0%体積器具と使用条件の評価

ここでは測定液濃度の3.0%に検量線・標準液を含めたので、同じ寄与を別行で再び足しません。回収補正も、測定結果の補正方法と整合させる必要があります。実際には完全分解や試料均一性などが重要なら追加して評価します。

2. 合成して、報告する幅に変える

四つの相対標準不確かさ3、2、1、1パーセントを二乗和の平方根で合成する計算図
説明用の不確かさバジェット。寄与が独立に近いと仮定した計算です。

この例の測定モデルを掛け算・割り算とみなし、寄与が互いに独立に近く、線形近似が使えると仮定します。相対合成標準不確かさは √(3.0² + 2.0² + 1.0² + 1.0²) × 1% = √15 × 1% ≈ 3.87% です。

10.0 mg/kgに掛けると、u_c ≈ 10.0 × 0.0387 = 0.387 mg/kg。説明用にk=2を選ぶと、U = 2 × 0.387 = 0.774 mg/kg ≈ 0.8 mg/kg。したがって、丸め方をそろえた報告例は鉛:10.0 ± 0.8 mg/kg(拡張不確かさ、k=2)です。

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計算段階式結果
試料濃度0.100 × 0.0500 ÷ 0.00050010.0 mg/kg
相対合成標準不確かさ√(3.0² + 2.0² + 1.0² + 1.0²)約3.87%
合成標準不確かさ10.0 × 0.0387約0.387 mg/kg
拡張不確かさ2 × 0.387約0.8 mg/kg

平方根を取る前に各割合を二乗するのが、この仮定下のポイントです。3% + 2% + 1% + 1% = 7%をそのまま標準不確かさとする計算ではありません。強い相関がある寄与、非線形なモデル、ゼロ付近の濃度では、共分散を含む計算や別の評価法を検討します。BIPM:GUM

ICP(誘導結合プラズマ)以外では何が変わる?

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手法主に点検する寄与とくに注意する場面
ICP-MS・ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)前処理回収、標準液、検量線、マトリックス干渉、ブランク微量元素、分解を伴う試料、定量下限付近
GC・LC抽出回収、注入・ピーク積分、検量線、内標準、分離異性体や妨害ピーク、試料調製・保存の影響
UV-Visなどの分光法標準液、波長、セル、ベースライン、吸光度の繰返し吸光度が低い領域、マトリックスによる背景変化

同じ装置でも、何を測るか、どんな試料か、どの濃度域かで寄与の大きさは変わります。したがって「ICPなら不確かさは一律5%」のような固定値にはできません。実際のバジェットは方法の検証・妥当性確認や日常QC(品質管理)のデータを使って組み、変化があれば見直します。Eurachem/CITAC:Quantifying Uncertainty in Analytical Measurement

報告値と規格値を比べるとき

測定値10.0 mg/kgに対して規格上限が10.5 mg/kgだとします。測定値だけを見ると上限より小さい一方、説明用の拡張不確かさを示す範囲は上限をまたぎます。この図だけで合格・不合格を決めず、顧客・規制・試験方法に適用する判定ルールを先に確認します。 判定ルールによって、境界付近のリスクの扱いが変わります。Eurachem:不確かさを用いた適合性評価

不確かさをすべての試験報告書に必ず同じ形式で併記する、という意味でもありません。結果の妥当性や用途に関係する場合、顧客が求める場合、仕様への適合に影響する場合など、報告の要否と形式を確認します。NITE(製品評価技術基盤機構):JNLA(産業標準化法試験事業者登録制度)技術的事項のFAQ

よくある質問

繰り返し測定のRSD(相対標準偏差)を、そのまま不確かさにできますか?

RSDは精度の一つの情報です。試料調製から報告までのすべてを含むデータか、校正・回収・標準値の不確かさが別に必要かを確認します。既に含まれる要因を二重に加えないことも重要です。

偏りが見つかったら、幅を大きくすれば済みますか?

測定法の偏りを確認し、原因を調べ、妥当な補正が可能なら補正とその不確かさを評価します。単に大きな「±」で既知の問題を覆い隠しません。Eurachem/CITAC:不確かさガイド

k=2は常に95%の保証ですか?

いいえ。k=2はよく用いられますが、包含確率は分布や自由度などの条件に依存します。報告には、使ったkと評価の前提が伝わる情報を残します。BIPM:JCGM 100:2008

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ISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議) 17025の全体像では、認定とISO(国際標準化機構) 9001の違いを整理しました。続編の計量トレーサビリティでは、標準液や校正証明書から報告値までをどうつなぐかを図解します。

この記事の計算は説明用です。実務では、測定量の定義、対象試料、評価データ、相関、偏り、報告目的を明確にし、試験室の手順と適用する認定方針に従って評価してください。JAB:試験における測定不確かさ評価の実践ガイドライン