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分析ノウハウ

分析法バリデーションの定量下限・検出下限:ICP・GC/LC・分光法での決め方

ICP、クロマトグラフィー、分光法の信号とLOD・LOQの境界を示すイラスト
検出の証拠と、濃度を報告できる性能を分けて確認する。イメージイラスト

微量成分を測るとき、「ピークが見える」ことと「濃度を信頼して報告できる」ことは異なります。検出下限(LOD、ICHではDL)は対象が存在すると判断できる下限、定量下限(LOQ、ICHではQL)は目的に照らして許容できる真度・精度で数値を求められる下限です。通常、LODはLOQより低くなります。

この記事では両者の違い、代表的な推定方法と実証方法を整理し、ICP-MS・ICP-OES、GC・LC、分光法で何を確認するかを示します。

まず「検出」と「定量」を分ける

ブランク、検出できる範囲、定量できる範囲を示す概念図
境界は一律の数字ではなく、選んだ判定規則と分析法全体の性能に依存します。
結果の位置言えること注意点
LOD未満この方法の判定規則では検出を確認できない成分がゼロという意味ではない
LOD以上・LOQ未満検出の証拠はあるが、濃度値の性能が十分とは限らない数値報告の可否は方法と報告規則による
LOQ以上確認済みの範囲と条件なら定量できる高濃度側も検量範囲内か確認する

装置だけで求める装置検出下限と、採取・抽出・分解・希釈を含む分析法の下限は分けます。ブランクの種類、試料マトリックス、測定対象、使用したシグナル、前処理、計算式を明記しなければ、下限値だけを比較できません。報告下限は、実証したLOQに加え、最下位検量点や運用上の要件から設定することがあります。

下限を推定する三つの方法

1. 低濃度試料を実際に測る

既知濃度の低濃度試料を分析手順の最初から測り、対象を識別できる最小水準をLODの候補とします。LOQの候補では、複数の独立試料について回収率や偏り、SD・RSD、妨害、検量線による逆算を確認します。計算上の値をそのままLOQと呼ばず、候補濃度を実試料に近い条件で確かめることが要点です。

2. シグナル対ノイズ比(S/N)を見る

ベースラインノイズを定義できる測定では、ICH Q2(R2)はLODの目安としてS/N 3:1または2:1、LOQでは少なくとも10:1を示します。ノイズを測る位置と幅、ピーク高・面積などシグナルの定義、積分設定を固定します。S/Nが10でも抽出回収や前処理のばらつきが悪ければ、方法全体のLOQは示せません。ICH Q2(R2):Validation of Analytical Procedures

3. 応答のSDと検量線の傾きから推定する

線形応答が成り立つ場合、ICH Q2(R2)の推定式は次のとおりです。

LOD = 3.3 × σ ÷ S  LOQ = 10 × σ ÷ S

σは応答の標準偏差、Sは検量線の傾きです。たとえばσ=0.6シグナル単位、S=20シグナル単位/µg/Lなら、LOD=0.099 µg/L、LOQ=0.30 µg/Lです。この例は推定値であり、0.30 µg/Lで独立調製した試料の真度・精度を確認して初めて、その水準を定量下限として採用できます。σには下限付近の回帰残差のSDや、複数検量線の切片のSDなどを用います。高濃度域だけの残差から低濃度の下限を外挿しないようにします。ICH Q2(R2):Validation of Analytical Procedures

方法向く測定つまずきやすい点
低濃度試料の実測すべての方法調製・マトリックス・日差を含める
S/NGC・LCのピーク、明瞭なスペクトルピークノイズ区間や処理設定で値が変わる
σ/S線形な検量応答σの求め方と低濃度域の妥当性が重要

ブランクを反復する方法もあります。ただし、測定値が負になる、ブランクシグナルが一定、マトリックスによって分散が変わる場合には、単純な「ブランク平均+3SD」を濃度のLODとして機械的に使えません。採用した統計的な判定規則と換算方法を明示します。Eurachem:The Fitness for Purpose of Analytical Methods

ICP-MS・ICP-OESの場合

ICPでは測定液の下限と元試料の下限を区別します。測定液LOQが0.20 µg/Lで、試料0.50 gを分解して50 mLに定容したなら、元試料のLOQは0.020 mg/kgです(追加希釈なしの場合)。

元試料のLOQ(mg/kg)=測定液LOQ(µg/L)×定容量(L)×追加希釈倍率÷試料量(g)

数値は単位換算まで含めた式です。試料量を半分にすれば元試料のLOQは2倍になります。酸・容器・試薬由来の汚染、ICP-MSの多原子イオンや同重体、ICP-OESの線重なりと背景補正も下限を左右します。ICP-MSとICP-OESの使い分け特異性も参照してください。

検証では、試薬ブランクだけでなく全前処理を通した方法ブランクと、代表マトリックスの低濃度添加試料を独立に調製します。元素・質量数または波長ごとに下限を設定し、実際の干渉補正・内標準補正を適用した値で評価します。ICP-MSの計数ノイズやICP-OESの背景ノイズだけから得た装置感度を、分解を含む方法下限と取り違えないようにします。

GC・LCの場合

クロマトグラフィーでは、対象ピークの近くでノイズを測るS/N法が直感的です。ただし、ベースラインの傾斜、共溶出、ゴーストピーク、保持時間のずれ、積分設定が低濃度ピークの識別を左右します。MS検出では定量イオンだけでなく確認イオンの比や保持時間も確認します。

同じ保持時間付近の低濃度ピークとノイズの関係を示す図
概念図。S/Nの値はノイズ区間、シグナルの定義、処理条件に依存します。

抽出・精製・濃縮・誘導体化がある方法では、標準液の反復注入だけでは方法LOQになりません。マトリックスへ下限候補濃度を添加し、独立した試料として前処理します。内標準を用いるときは、面積比による補正後の濃度に加え、内標準の応答低下や妨害も確認します。LC-MSでマトリックス効果が強い場合、溶媒標準とマトリックス中の下限が一致するとは限りません。

分光法の場合

UV-Vis・蛍光法では、ブランクの吸光度・蛍光強度のばらつきと検量線の傾きから候補値を求められます。発色反応があるなら、試薬ブランク、反応時間、温度、セルの設置、濁りや散乱まで含めて低濃度試料を反復します。蛍光では消光や内フィルター効果による非線形性も確認します。

IR・ラマン・近赤外などの多変量定量では、単一波長のS/Nだけで予測値のLOQを決めにくい場合があります。校正モデルとは独立した低濃度の試料群を用い、予測値の偏り、散らばり、試料間の組成差、モデル適用範囲を評価します。スペクトルの平滑化やベースライン補正を変えて見かけのS/Nだけを改善しても、試料濃度の定量性能は改善したとは言えません。

三つの方法を比較する

観点ICP-MS・ICP-OESGC・LC分光法
下限を左右するシグナル元素シグナル、背景、干渉ピーク、近傍ノイズ、共溶出吸光・発光、背景、予測値
前処理を含む反復分解・定容・希釈抽出・精製・誘導体化試薬反応・セル設置・試料配置
重要なブランク試薬・方法・マトリックス溶媒・方法・マトリックス溶媒・試薬・基材
低濃度確認元試料単位への換算、元素別の真度・精度ピーク識別、回収率、確認情報背景補正、非線形性、予測誤差

実務での決定手順

  1. 報告単位、対象マトリックス、必要な下限と判定規則を決める。
  2. 方法ブランクと低濃度試料からLOD・LOQの候補を推定する。
  3. 候補濃度で独立した試料を複数調製し、通常の全手順を実施する。
  4. 特異性、真度、精度、検量線の最下位点、日間変動を確認する。
  5. 性能を満たす最も低い水準を採用し、報告下限と結果表記を決める。
  6. 試料量・定容量・希釈・マトリックスが変わる場合は、元試料換算値と適用範囲を更新する。

合否基準は分析目的と適用規格に合わせ、試験前に設定します。ICH Q2(R2)も、算出や外挿で得た下限には近傍試料による確認を求め、LOQは下限付近の真度・精度で直接実証できるとしています。ICH Q2(R2):Validation of Analytical Procedures

よくある誤解

誤解確認すべきこと
検量線の最小標準液がLOQその濃度の実試料で真度・精度を確認する
S/N=10なら必ず定量できる前処理回収、妨害、日間変動も含める
不検出は濃度ゼロ判定規則で検出を確認できなかったという意味
装置カタログの下限を試料へ適用できる方法ブランクと元試料への換算を確認する
全試料でLOQは同じ試料量、希釈、マトリックスによって変わり得る

まとめ

LODは対象を検出できる下限、LOQは目的に必要な性能で濃度を定量できる下限です。S/Nやσ/Sは候補を見積もる道具であり、採用する下限は通常の前処理を通した低濃度試料で確かめます。ICPでは元試料への換算、GC・LCではピークと前処理、分光法では背景と予測誤差が特に重要です。

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