PFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)を一つの数値で規制する世界共通の制度はありません。 代表例はPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)です。日本、米国、欧州連合(EU)では、対象物質、対象となる水・製品、濃度の合算方法、法的効力が異なります。この記事では2026年11月1日時点で確認できる公的資料に基づき、分析法を選ぶ前に把握したい規制の全体像を整理します。個別製品の適否は、輸出先・用途・適用日・適用除外を含めて原文で確認してください。

日本・米国・EUでPFAS規制の対象と判定方法が異なることを示す図
同じPFASでも、国・媒体・用途・対象物質の定義により調べる内容は変わります。

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最初に分ける問い例
どこへ出すか日本国内、米国、EU、さらに米国の州やEU加盟国
何に含まれるか水道水、河川・地下水、製品、包装材、泡消火薬剤、排出物
何を数えるか指定2物質の合計、各物質、指定20物質の合計、より広いPFAS群
どの段階か成立・施行済み、移行期間中、提案・審議中

PFASとは何か:規制対象は「全PFAS」とは限らない

PFASは炭素とフッ素の結合を含む多様な物質群で、撥水・撥油や耐熱などの性質を利用してきました。この記事に出てくる主な略号は次のとおりです。規制文書によって塩、異性体、関連物質、前駆体、ポリマーを含める範囲が変わります。欧州化学品庁(ECHA)のPFAS解説

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略号正式名称
PFOSペルフルオロオクタンスルホン酸
PFOAペルフルオロオクタン酸
PFHxSペルフルオロヘキサンスルホン酸
PFHxAペルフルオロヘキサン酸
PFNAペルフルオロノナン酸
PFBSペルフルオロブタンスルホン酸
HFPO-DAヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸。GenX関連物質の一つ

したがって「PFAS不使用」「PFAS基準適合」という一文だけでは、何を検査したか分かりません。対象の法令・物質リスト・測定する試料・報告単位をセットで確認する必要があります。

まず比較:日米欧の飲料水ルール

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地域主な制度と対象数値の読み方2026年11月1日の状態
日本水道水質基準:PFOSとPFOA2物質の合算で50 ng/L以下2026年4月1日施行。水道事業者等に検査・基準遵守義務
米国連邦飲料水基準:PFOA、PFOS各4.0 ng/Lの最大汚染物質濃度2024年の最終規則による値。遵守期限の延長案は審議中
米国同規則:PFHxS、PFNA、HFPO-DAと一部混合物3物質は各10 ng/L、混合物はハザード指数2024年規則に含まれるが、米国環境保護庁(EPA)が2026年に撤回案を公表。撤回は未確定
EU飲料水指令:指定20物質の「Sum of PFAS」合計0.10 µg/L=100 ng/L2026年1月12日までに適合
EU飲料水指令:「PFAS Total」0.50 µg/L=500 ng/L上の20物質合計とは別の指標。加盟国の実施方法を確認

日本の50 ng/LはPFOSとPFOAを足した値、米国の4.0 ng/LはPFOA、PFOSそれぞれの値、EUの100 ng/Lは指定20物質の合計です。数値だけを並べて「どの地域が何倍厳しい」と結論しないでください。対象物質と合算方法が一致していません。出典:日本の水道水質基準、米国環境保護庁(EPA)の飲料水規則、EU飲料水指令のPFAS指標に関する欧州委員会通知

日米欧の飲料水で「二物質の合算」「個別値」「二十物質の合計」が違うことを示す模式図
濃度値を比べる前に、分母となる試料と足し合わせる物質を確認します。

飲料水以外の規制を一覧で見る

飲料水以外では、製造・輸入の制限、特定製品の販売・使用制限、環境への放出や事業者の報告が別々の制度で扱われます。「PFAS規制」という言葉がどれを指すのか、まず対象を確認してください。

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地域・対象制度主な内容2026年11月1日時点の扱い
日本:化学物質と指定製品化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)・第一種特定化学物質PFOS、PFOA、PFHxSなどの製造・輸入等を原則禁止。塩・異性体・関連物質、指定製品、例外は物質ごとに確認施行済み。全PFASを一律に禁止する制度ではない
日本:河川・地下水公共用水域・地下水の指針値PFOSとPFOAの合計50 ng/Lを指針値として扱う設定済み。水道事業者の水質基準と法的位置づけが異なる
米国:汚染サイト・放出包括的環境対応・補償・責任法(CERCLA)の有害物質指定PFOA、PFOSとその塩・構造異性体を対象に、放出報告や汚染サイト対応の枠組みへ組み込む施行済み。消費者製品の一律含有禁止ではない
米国:製造・輸入の情報有害物質規制法(TSCA)第8条(a)(7)対象期間に製造・輸入されたPFASや含有成形品について、用途・量・曝露等の情報を報告する制度規則あり。報告範囲の変更案と提出時期の更新を確認する
米国:事業所の排出情報有害化学物質排出目録(TRI)対象業種・物質・報告条件に該当する施設が、環境への排出や廃棄物管理を報告施行済み。製品中のPFASを一律に禁じる制度ではない
EU:指定PFAS残留性有機汚染物質(POPs)規則PFOS、PFOA、PFHxS等について製造・上市・使用などを制限。適用除外や微量汚染の扱いは個別条項による施行済み。対象物質ごとに確認
EU:特定用途の製品化学物質の登録・評価・認可・制限に関するREACH規則のPFHxA制限PFHxAと関連物質を含む消費者向け繊維、食品包装、化粧品などを用途別に制限採択済み。用途ごとに適用日・移行期間が異なる
EU:食品接触包装包装及び包装廃棄物規則(EU)2025/40対象PFASの個別値、対象物質の合計、ポリマーを含むPFASにそれぞれ濃度要件2026年8月12日から適用。水のng/L基準を流用しない
EU:泡消火薬剤REACH規則のPFAS制限泡消火薬剤中のPFASに用途別の制限、表示・管理、段階的な移行期間を設定採択済み。用途により適用時期が異なる
EU:PFAS群全体REACH規則の包括制限案多様な用途にわたるPFAS群の制限を審議提案・審議中。成立済みの全面禁止ではない

根拠資料:日本の化審法対象、日本の河川・地下水の指針値、米国のCERCLA指定、米国TSCA報告、米国TRIのPFAS、EUのPFHxA制限、EUの包装規則、EUの泡消火薬剤規則、ECHAの包括制限案。

米国では、この連邦制度に加えて州ごとの製品・水に関する規制も確認します。EUでも規則と飲料水指令の国内実施を区別します。次の各節では、表で特に誤解しやすい制度の違いを補足します。

日本:水道水の基準と化審法の製造・輸入規制

日本では、2026年4月からPFOSとPFOAの合算50 ng/L以下が水道水質基準となりました。それ以前の水質管理目標設定項目から、検査と遵守を要する基準へ移った点が重要です。公共用水域や地下水の指針値は水道水質基準とは別の位置づけです。環境省の省令公布資料

製造・輸入などでは、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)の第一種特定化学物質の指定を確認します。PFOS、PFOA、PFHxSなどが対象となっており、製造・輸入等が原則禁止されます。ただし、対象は単純な略号だけで決まらず、塩・異性体・関連物質、指定製品や例外の範囲を個別に確認します。環境省のPFASに関するQ&A

水の濃度基準と、化学物質・製品の製造輸入規制は別制度です。水道水の50 ng/Lを、そのまま樹脂部品や衣料品の含有量基準として使うことはできません。

米国:連邦の飲料水基準と、別の環境規制

米国EPAは2024年、公共水道システムを対象とするNational Primary Drinking Water Regulation(連邦一次飲料水規則)を最終化しました。PFOAとPFOSのMaximum Contaminant Level(最大汚染物質濃度、MCL)は各4.0 ng/Lです。PFHxS、PFNA(ペルフルオロノナン酸)、HFPO-DA(ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸、GenX関連物質)の各10 ng/L、およびPFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸)を含む一部混合物のハザード指数も2024年規則に含まれます。EPAの規則一覧

ただし、2026年5月に二つの見直し案が出ています。一つはPFOA・PFOSの4.0 ng/Lを維持しつつ、条件を満たす水道事業者の遵守期限を2031年まで延ばせるようにする案。もう一つはPFHxS、PFNA、HFPO-DAおよび混合物指数の連邦規制を撤回する案です。いずれも提案であり、最終規則と同列に扱いません。 EPAの期限延長案、EPAの撤回案

水道水以外では、PFOAとPFOS(塩・構造異性体を含む)はComprehensive Environmental Response, Compensation, and Liability Act(包括的環境対応・補償・責任法、CERCLA)上の有害物質に指定されています。これは汚染サイトの対応や放出報告に関わる制度で、飲料水MCLでも製品一律の含有禁止でもありません。EPAのCERCLAに関するQ&A

さらに州ごとの飲料水・製品規制が連邦制度と異なる場合があります。米国向け製品では、販売先の州、製品分類、施行日まで確認します。

EU:すでにある個別規制と、審議中の包括規制

EUには、残留性有機汚染物質(POPs)規則に基づくPFOS、PFOA、PFHxS等への規制と、化学物質の登録・評価・認可・制限に関するREACH規則による用途別の制限があります。EUのPOPs規則、欧州委員会の制限一覧

PFHxAとその関連物質については、消費者向け繊維、食品包装、化粧品など特定用途の制限が採択され、用途ごとに移行期間が異なります。全用途・全製品を同じ日から禁じる制度ではありません。欧州委員会規則(EU)2024/2462

包装では、包装及び包装廃棄物規則(EU)2025/40により、2026年8月12日から食品接触包装のPFASに濃度要件が適用されます。個別PFAS、対象PFASの合計、ポリマーを含むPFASに異なる判定枠があり、単一の「総フッ素値」だけで全ての適否を決める制度ではありません。規則本文・第5条

EU全域のPFAS群全体を対象とするREACH制限案も審議が進んでいます。ECHAのリスク評価委員会(RAC)は2026年3月に意見を採択し、社会経済分析委員会(SEAC)は意見案を示しました。しかし、2026年11月1日時点で、この包括制限案を「成立済みの全面禁止」と呼ぶのは誤りです。最終意見と欧州委員会の規則化を追う必要があります。ECHAの審議状況

分析担当者が規制を読み解く順番

  1. 試料を特定する: 飲料水、環境水、製品、包装、廃棄物のどれか。
  2. 適用先を特定する: 日本、米国の連邦・州、EU規則と加盟国の実施制度。
  3. 物質範囲を写す: 個別物質、塩、異性体、前駆体、ポリマー、合算対象。
  4. 単位と判定方法を合わせる: 水のng/Lと製品のµg/kg、個別値と合算値、検出下限と定量下限を混同しない。
  5. 施行と提案を分ける: 公布、適用開始、経過措置、審議中の案を別々に記録する。

特に対象PFASのリストを決めずに分析法だけ選ぶと、規制への適合判断に必要な物質を測り漏らすおそれがあります。次の記事では、水・製品などの試料に応じたPFAS分析法、前処理、ブランク汚染、定量下限を整理します。

確認に使った一次資料