「規格法だから、そのまま測定を始めてよい?」「条件を少し変えたら、最初から全部やり直す?」。ISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議) 17025の方法選択で迷いやすいのは、方法のベリフィケーション(導入前検証)とバリデーション(妥当性確認)を同じ作業として捉えてしまうことです。

この記事はISO/IEC 17025の全体像と認定取得の流れに続く実務編です。ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)、GC(ガスクロマトグラフィー)・LC(液体クロマトグラフィー)、分光法を例に、どちらが必要か、何を記録するかを見ていきます。

まず一枚で:問うていることが違う

方法の妥当性確認と施設での導入前検証を二つの問いとして並べた図
妥当性確認は方法と用途の適合、導入前検証は自施設で要求性能を出せるかを問います。

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ベリフィケーション(導入前検証)バリデーション(妥当性確認)
中心の問い自施設の人・装置・試料で、要求性能を達成できるかその方法は、意図する用途に必要な性能を持つか
典型的な場面妥当性が示された規格法を、その適用範囲内で導入する非標準法・自施設開発法、規格法の適用範囲外使用や重要な変更
比べる相手規格・既存の妥当性確認データと、自施設の用途から定めた受入基準目的から定めた性能要求と、試験で得た特性値
主な成果物導入前検証の計画、測定記録、基準との比較、使用可否の承認妥当性確認計画、性能特性の評価、適用範囲と限界、承認

ISO/IEC 17025:2017の7.2.1.5は、方法を導入する前に試験所が適切に実施でき、必要な性能を達成できることの検証を求めます。7.2.2.1は、非標準法、自施設開発法、意図された適用範囲外で使う規格法、変更した規格法などに妥当性確認を求めます。変更が元の妥当性確認に影響するなら、その影響に応じて再度の妥当性確認を行います。Eurachem「The Fitness for Purpose of Analytical Methods」第3版(2025)第3章/ISO/IEC 17025:2017の概要

二者択一ではありません。変更した方法を妥当性確認した後も、その方法を自施設で安定して実施できるかという導入・日常管理の問いは残ります。逆に、規格法という名前だけで妥当性確認済みと決めつけず、対象試料・濃度・操作条件が、示された範囲に入るかを調べます。

どちらを計画する? 三つの質問で分ける

公表された妥当性、適用範囲、変更の影響から必要な評価を選ぶ判断フロー
公開された方法の名称ではなく、妥当性の根拠と自施設での用途を照合します。
  1. 方法の妥当性は、誰がどの範囲で示したか。 規格本文、共同試験、文献、開発報告などを確認し、対象物・試料・濃度・手順を抜き出します。
  2. 自施設の用途はその範囲に収まるか。 マトリックス、測定範囲、前処理、判定値の近さを照合します。範囲内なら、まず導入前検証を設計します。
  3. 範囲外使用や変更で性能が変わり得るか。 変わるなら影響を評価し、必要な性能特性について妥当性確認します。「少しの変更」かどうかではなく、結果への影響で判断します。

たとえば、メーカーのアプリケーションノートをそのまま採用しても、それだけでISO(国際標準化機構)等の規格法にはなりません。文書の名称より、方法の出所、妥当性の証拠、用途との一致を確認します。妥当性が確認済みの方法でも、移管先の施設が必要な性能を達成できるかは別に示します。Eurachem第3版 第3.3~3.4節

具体例:同じ装置でも結論は変わる

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場面判断の出発点主に確かめる性能と記録
ICP-MSで、対象の水試料・濃度範囲に適合する規格法を、定められた操作で導入導入前検証。自施設で要求性能を満たせるかブランク、低濃度試料、認証標準物質や添加回収、繰返し精度、干渉・内標準の管理
同じICP-MS法を、規格で想定していない高塩分試料へ適用妥当性確認。塩による信号抑制や干渉、前処理を含めた適用範囲を評価マトリックスの影響、真度、精度、定量下限、測定範囲、必要な場合は不確かさ
公表されたGC法の対象成分・試料を変えず、別機種に導入変更点の影響を評価し、必要な導入前検証を行う分離・保持、ピーク同定、検量線、回収、精度、検出器の性能
LC法でカラムや移動相条件を変更し、近接ピークの分離が変わり得る変更の影響評価に応じて再妥当性確認の範囲を決める選択性、分離度、回収、検量範囲、試料液の安定性など
自施設で新たに開発したUV-Visの発色定量法妥当性確認。用途に必要な性能を組み立てて評価波長・発色時間、共存物質、測定範囲、真度、精度、低濃度性能

表は考え方の例です。「ICP-MSだから全項目」「規格法だから精度だけ」のような固定リストはありません。要求性能は、顧客の目的、規制や規格の要求、報告範囲、試料の難しさから決めます。測定法の性能特性には、特異性・選択性、真度、精度、検出下限・定量下限、測定範囲、頑健性などがあります。Eurachem第3版 第4~5章

数字で見る導入前検証:水中鉛の説明用例

ある規格法を自施設で導入し、水中鉛を5~100 µg/Lで報告する想定です。規格法の適用範囲・要求値にこの試料と濃度が含まれることを確認したうえで、使用前に次のような受入基準を決めたとします。以下の数値は架空の教育用例であり、ISO/IEC 17025の共通合否基準ではありません。

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自施設が先に決めた基準の例得られた結果読み方
低濃度5 µg/Lで回収率80~120%92~105%この濃度での回収は基準内
10 µg/Lの繰返し測定でRSD(相対標準偏差) 10%以下RSD 4.8%併行精度は基準内
50 µg/Lの認証標準物質で認証値と整合49.1 µg/L証明書の不確かさと判定規則も見て判断
試料ブランクが報告下限に影響しない最大0.3 µg/Lブランク由来の影響を評価

この結果だけで、あらゆる水試料や全濃度への適用が証明されたわけではありません。規格の要求性能と試験所の用途に対し、どの代表試料・濃度・日・担当者で検証したかを残します。低濃度側や難しいマトリックスに偏りが出るなら、追加試験や方法の見直しが必要です。認証標準物質の合否は単純な測定値の近さだけでなく、認証値と測定の不確かさ、事前の判定規則を考慮します。

妥当性確認は「必要な範囲」を設計する

用途と変更によって必要な性能評価を選ぶ図
すべての性能項目を毎回同じ回数で測るのでなく、用途と変更の影響に合わせて評価を組みます。

妥当性確認の計画では、まず測定対象、試料、測定範囲、報告・判定の目的を明記します。次に、その目的に必要な性能基準と試験デザインを定め、得られたデータを基準と比較します。変更法なら「元の妥当性確認データのどこを再利用でき、どの性能を追加評価するか」を記録します。ISO/IEC 17025は、妥当性確認を用途に必要な程度で行う考え方です。Eurachem第3版 第3.3節・第4.2節

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残す記録説明できること
方法・版・変更点、試料と測定範囲何に対する結論か
用途と性能要求、事前の受入基準なぜその試験を選んだか
生データ、計算、外れ値・不適合の扱い結論を追試・再確認できるか
各性能の結果と基準との比較どこまで使えるか、どこに制限があるか
報告書・承認、日常QC(品質管理)への反映いつ誰が使用を認め、どう監視するか

JAB(日本適合性認定協会)のフレキシブルな認定範囲の文書も、方法の導入前検証または妥当性確認の文書化した手順と実施記録を求め、方法を変更する場合や開発する場合で評価項目の例を分けています。ただし、この文書はフレキシブルな認定範囲向けです。一般的な固定範囲の全試験所に、その表をそのまま合否表として当てはめないでください。JAB RL301:2025 第5.3節

よくある混同をほどく

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よくある言い方実務上の確認
「規格法だから検証は不要」規格の範囲と自施設の用途を照合し、導入前に必要な性能を達成できると示す
「検量線のR²が高いから妥当性確認済み」選択性、真度、精度、低濃度域、マトリックスなど、用途に必要な項目を見る
「装置を替えたら必ず全面的な再バリデーション」変更の影響を評価し、必要な検証・再妥当性確認の範囲を決める
「一度合格したので以後の確認は不要」導入後も管理試料、ブランク、技能試験などで結果の妥当性を監視する

まとめ: ベリフィケーションは「既に根拠のある方法を、自施設で要求どおりに実施できるか」。バリデーションは「その方法が、意図する用途に適するか」。最初に方法の根拠と適用範囲、次に自施設の用途と変更点を照合すると、必要な評価と記録が決めやすくなります。