酢酸エチルを描く実例では、構造式を作り、IR(赤外線)・¹H NMR(核磁気共鳴)・EI-MS(電子イオン化質量分析)の参考予測を見て画像を保存しました。その後のChemlioraには、¹³C NMRとUV-Visの概略予測、物性の目安、3D配座、描画履歴、反応機構の作図支援などが加わっています。この記事は、初めて使う人が「何が増え、どこから試すか」を選べるよう、2026年11月1日時点の公開機能をまとめた案内です。
予測値は実測値ではありません。化合物の同定、品質判定、報告値の根拠には、実測スペクトルや標準品との照合が必要です。
まず全体像:以前の記事から何が増えた?
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| 使いたい場面 | 酢酸エチルの記事で扱ったこと | その後に使えるようになったこと | 注意する点 |
|---|---|---|---|
| 構造を描く | 手描き・SMILES(分子構造の線形表記法)入力、画像保存 | 環・置換基・糖類などのテンプレート、立体ラベル、描画履歴、お気に入り、作図の妥当性確認 | 表示が整っていても構造が正しいとは限らない |
| スペクトルを考える | IR、¹H NMR、EI-MSの参考予測 | ¹³C NMR、UV-Visの概略予測、NMRの溶媒・不純物ピーク重ね表示、予測画面の拡大 | 予測と文献ピークの線を実測データと取り違えない |
| 分子を立体的に見る | 2D構造式 | 3D構造・配座の探索と保存、HOMO(最高被占分子軌道)・LUMO(最低空分子軌道)の簡易計算 | ひとつの配座や簡易計算の値で物性を断定しない |
| 資料を作る | PNG・SVG(Scalable Vector Graphics)・編集用JSON(JavaScript Object Notation) | 反応機構の曲がった矢印、整列、画像範囲・余白・背景の設定、クリップボードコピー | 印刷・提出前に結合と文字の欠落を確認する |
これは、更新履歴とChemlioraの使い方・利用上の注意を機能別にまとめたものです。以下では「今、何ができるか」と「その結果をどう読むか」を分けて説明します。
描画:複雑な構造と作図ミスに対応
酢酸エチルならSMILES入力が速い一方、縮合環、橋かけ環、糖類、保護基のついた化合物は一から描くと時間がかかります。現在は環・置換基のテンプレートを選び、必要な部分だけ編集できます。波線結合や立体不定の二重結合、R/S・E/Zの表示も使えるため、立体が決まっている部分と未指定の部分を図に残しやすくなりました。
原子価、電荷、芳香環の扱いについては妥当性の印が表示されます。印から結合次数や電荷の変更など、コピー上で検査した修正案を選べます。修正は元に戻せます。ただし自動修正案は化学的な正解の保証ではありません。たとえば塩の対イオンを足すか、もとの構造式の電荷を直すかは、元資料や実試料の情報で判断します。
頻繁に使う部分構造はお気に入りに保存できます。描いた構造の履歴はこのブラウザー内に最大100件保存され、開き直し、検索、固定、書き出しができます。別端末との同期はありません。大切なデータは編集用JSONとして保存してください。
解析:5種類の参考スペクトルと物性の目安
IR、EI-MS、¹H NMRに加え、現在は¹³C NMRとUV-Visの概略予測を開けます。¹H・¹³C NMRでは、重水素化溶媒の残留信号、水、代表的な不純物の文献上の位置を重ねられます。この重ね表示は予測計算を溶媒に合わせて補正する機能ではありません。ピーク位置の確認には溶媒・水・不純物ピークの読み方も参照してください。
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| 画面 | 役立つ問い | 結果の読み方 |
|---|---|---|
| IR | どの官能基の吸収を予想するか | 試料状態を選び、帯の候補と幅を見る。実測の吸収強度・位置とは異なり得る |
| EI-MS | どの質量のイオンが候補になるか | 推定イオン構造と根拠を見る。統計的に補ったピークや転位候補は機構の証明ではない |
| ¹H NMR | 水素の環境、積分、分裂をどう考えるか | 化学シフトと多重線は概算。J値は例示値で、実測精度は保証されない |
| ¹³C NMR | 炭素の環境をどう対応づけるか | 気相計算を基にした目安で、溶媒補正はない。試験版として扱う |
| UV-Vis | 発色団の吸収帯はどの付近か | 波長と吸収の強さの概略。溶媒・置換基効果を精密には表さない |
「物性の目安」には分子量、元素組成、回転可能結合数のような構造から求める値と、logP・logS・極性表面積などの見積もり値が並びます。官能基ごとのpKa(酸解離定数の負の常用対数)は典型的な範囲を示す表引きで、測定値ではありません。値の種類を混同しないことが大切です。
3DとHOMO・LUMO:形と電子を別々に見る
「3D構造・配座」では、2D構造を立体表示し、配座の探索、原子間の距離や角度の確認、3Dファイルの保存ができます。例えば柔らかい鎖状分子は回転によって形が変わるため、一つの表示形だけを唯一の構造と考えないようにします。配座探索には分子力場のMMFF94Sを使用します。
「HOMO・LUMO(簡易計算)」では、端末内で水素を加えた配座を作り、RHF/STO-3Gによる軌道の形とエネルギーを表示します。赤と青は軌道の波の符号を表し、電荷の正負ではありません。とくにLUMOとギャップは計算法や配座に依存する参考値です。ギャップをUV-Visの実験的な励起エネルギーと同一視しないでください。基礎はHOMO・LUMOの記事で確認できます。
反応機構と書き出し:説明用の図を作る
電子対・1電子の曲がった矢印や孤立電子対を描けます。矢印の端点を原子・結合・孤立電子対に結び付けると、構造を動かしても追従します。これは反応機構を説明する図の作成機能であり、描いた矢印から反応の可否を判定する機能ではありません。
画像書き出しでは範囲、余白、倍率、背景を設定でき、クリップボードへのコピーも可能です。レポート用ならSVG、画面共有やスライドならPNGを選び、生成画像を確認します。編集を続けるならJSONも保存します。
まず試すなら:酢酸エチルの次の3手
- Chemlioraを開き、酢酸エチルの CC(=O)OCC を入力する。元記事と同じ構造が出るか確認する。
- 「構造・解析」で¹³C NMRまたは「物性の目安」を開き、表示が構造由来の計算値か、概略予測かを読み分ける。NMRの溶媒ピークを重ねる場合は、文献線と予測線を混同しない。
- 「3D構造・配座」で向きを変え、平面図と立体図の役割を比べる。資料に使うときは画像と編集用JSONを保存する。
より複雑な構造では、テンプレート、立体ラベル、妥当性の印、反応機構の矢印を順に試せます。画面表示や予測モデルは更新されるため、操作名や限界の最新情報はツール内の使い方で確認してください。
まとめ
Chemlioraは、構造式を描く道具から、構造を起点に参考スペクトル、物性、3D、説明用の図を行き来できる作業環境へ広がりました。強みは一つの構造を描き直さずに複数の見方を試せることです。最初に入力構造を確かめ、表示された値の種類と限界を読み、重要な判断は実測と信頼できる資料で確かめてください。
