分析ノウハウ
HOMO・LUMOとは?分子軌道の見方と簡易計算の使い方
分子の中の電子は、どこにでも同じように存在するわけではありません。電子が占める軌道のうち最もエネルギーが高いものをHOMO、まだ電子が入っていない軌道のうち最もエネルギーが低いものをLUMOと呼びます。この二つを並べると、電子を与える側・受け取る側を考える入口になります。IUPAC Gold Book:frontier orbitals
本サイトの化学構造式描画ツールには、構造式からHOMO・LUMOを簡易計算し、エネルギーと3D形状を表示する機能があります。この記事では、結果画面をどう読むか、何を結論にしてよいかを図で説明します。
HOMOとLUMOは「電子の席」の境界
| 略語 | 英語 | 日本語 | まず見る点 |
|---|---|---|---|
| HOMO | Highest Occupied Molecular Orbital | 最高被占分子軌道 | 電子が入った軌道の最上位 |
| LUMO | Lowest Unoccupied Molecular Orbital | 最低空分子軌道 | 電子が入っていない軌道の最下位 |
| ギャップ | HOMO–LUMO gap | 両者の軌道エネルギー差 | LUMOの値 − HOMOの値 |
エネルギー軸では上ほどエネルギーが高く、通常の閉殻分子では占有軌道に電子を2個ずつ描きます。HOMOの上にある最初の空席がLUMOです。ギャップは二つの軌道エネルギーの差であり、分子が光を吸収するときの実測エネルギーそのものではありません。
3Dの形と色は何を表す?
3Dの色分けは、波として表した軌道の正負の位相です。赤い部分が正電荷、青い部分が負電荷、という意味ではありません。軌道の値がゼロになる境界を節と呼びます。表示面は軌道の値をある大きさで切り出した等値面なので、見えている面だけに電子が閉じ込められているわけでもありません。
形は相手の軌道との重なりや向きを考える手掛かりになります。ただし、HOMOの形だけで「この原子が必ず反応する」、LUMOの色だけで「ここが正に帯電している」とは決められません。反応相手、立体障害、溶媒、電荷、ほかの軌道も効きます。
ギャップは引き算で読む
ギャップ(eV)= LUMOのエネルギー(eV)− HOMOのエネルギー(eV)
たとえば仮の値としてHOMOが −6.0 eV、LUMOが +1.5 eVなら、ギャップは 1.5 − (−6.0) = 7.5 eVです。これは計算画面の数値の読み方を示す例で、特定の物質の測定値ではありません。
同じ計算法・同じ条件で構造を比較すると、軌道の位置やギャップの変化を定性的な手掛かりとして検討できます。しかし、HOMO–LUMOギャップをそのまま吸収極大、発光波長、酸化還元電位、反応速度へ換算してはいけません。励起状態では電子配置の変化や電子・正孔の相互作用などを扱う必要があります。Q-Chemマニュアル:励起状態の計算
本サイトの簡易計算を使う手順
- 化学構造式描画ツールで単一の分子を描き、結合・形式電荷・水素数を確認します。
- 「構造・解析」から「HOMO・LUMO(簡易計算)」を選びます。
- 計算の工程と経過時間を確認します。時間がかかる場合は「計算を中止」できます。
- 結果画面でHOMO・LUMOのエネルギー(eV)、ギャップ、3D形状を順に見ます。HOMOとLUMOの表示を切り替え、形の違いを比べます。
ツールは水素を加えた3D配座を1つ作り、Hartree–Fock法とSTO-3Gという小さな基底関数セットで軌道を計算します。通常の閉殻分子ではRHF、奇数電子の分子ではUHFを使います。表示値はHartreeからeVへ換算されます(1 Hartree ≒ 27.2114 eV)。STO-3Gは学習・概観向きの最小基底です。Psi4:Hartree–FockとSTO-3G
結果を比較するときのチェック表
| 確認すること | 変わると何が起きる? | 実務での扱い |
|---|---|---|
| 分子構造・結合次数・形式電荷 | 電子数や軌道の並びが変わる | 入力構造を先に確認する |
| 3D配座 | 原子の位置が変わり、軌道エネルギーも変わり得る | 1配座だけの結果と明記する |
| 計算法・基底関数 | 数値と空軌道の形が変わり得る | 異なる条件の絶対値を直接比較しない |
| 溶媒・周囲の分子 | この簡易計算には含まれない | 実験条件の再現と混同しない |
| 分子の大きさ | 計算時間とメモリー使用量が増える | 上限内の小さな分子から試す |
この機能はPC画面で140基底関数、モバイル画面で100基底関数が上限です。大きな分子や対応しない元素では計算できない場合があります。単一の3D配座での簡易計算なので、異性体・配座の検討、溶媒効果、精密な励起エネルギーや反応性の予測には、目的に応じた別の計算と実測による確認が必要です。
まずはこの順に読む
- 入力が正しいか:分子が1つか、結合・電荷・水素数は意図どおりか。
- 形を見る:HOMOとLUMOの広がり、節、相手との重なりを考える。
- 値を読む:各軌道のeV値と差を、同条件の比較材料として使う。
- 結論を絞る:この結果だけから吸収波長や反応位置を断定しない。
まず小さな分子で化学構造式描画ツールを試し、構造と3D形状を対応づけてみてください。