Chem-Analyses LabICP試料濃度換算ツール

分析ノウハウ

ICP-MS/OESの測定値をmg/kgへ換算する方法

試料の秤量から定容液の濃度換算へつながる分析器具のイラスト
測定溶液の濃度から、元試料の濃度へ。イメージイラスト

ICPの測定溶液中濃度から元試料中の濃度を求めるには、追加希釈を戻し、定容量を掛けて対象成分量を求め、秤量した試料量で割ります。µg/Lとmg/kgは表す対象が異なるため、単位名だけを置き換えることはできません。

例えば、同じ2 µg/Lという測定値でも、0.1 gの試料を調製したのか、1 gを調製したのかで元試料中濃度は変わります。測定値だけを見ると同じでも、そこへ至る試料量・液量・希釈操作が違うからです。この記事では、その操作を測定側から順にたどり、式の各項が何を戻しているのかを説明します。例はすべて説明用の人工データです。

まず測定値が何を表しているか確認する

ここでは、秤量した試料を分解・抽出して定容し、必要に応じて追加希釈して測定する場合を扱います。装置の出力が「測定溶液中濃度」で、追加希釈補正や元試料換算がまだ行われていないことが前提です。

装置ソフトに試料量や希釈倍率を登録している場合は、出力列の定義を確認してください。補正済みの値を再び補正すると、同じ倍率を二重に掛けることになります。

手元の値表しているものこの後に必要な換算
測定溶液中濃度装置に導入した溶液の濃度追加希釈を戻し、定容量と試料量で換算
追加希釈補正後濃度分解・抽出後の定容液の濃度定容量と試料量で換算
元試料中濃度試料質量当たりの対象成分量同じ換算を重ねない

本ツールが受け付けるのは表の1行目です。装置画面に「濃度」とだけ表示されている場合は、単位と補正設定を確認してから使う値を選びます。

換算式

記号入力単位
C測定溶液中濃度µg/L
B減算できるブランク値µg/L
D定容後から測定までの追加希釈倍率
V分解・抽出後の最終定容量mL
m秤量した試料量g

試料中濃度[mg/kg]=(C−B)×D×(V÷1000)÷m

V÷1000でmLをLに直します。µg/LにLを掛けるとµg、それをgで割るとµg/gです。1 µg/g=1 mg/kgなので、最後は数値を変えずにmg/kgと表せます。

なぜµg/gとmg/kgは同じ数値なのか

1 µg=0.001 mg、1 g=0.001 kgなので、分子と分母を同時に1000分の1にすると比は変わりません。

1 µg/g=0.001 mg÷0.001 kg=1 mg/kg

一方、µg/Lは溶液体積当たりの濃度です。分母がLのままなので、元試料の質量に結び付ける操作が必要になります。暗記した係数だけで処理するより、途中の単位が「µg/L → µg → µg/g」と変わることを確認すると、1000倍の取り違えを防ぎやすくなります。

ブランク補正を行わない場合はBを0として計算します。この式はブランク減算を一律に推奨するものではありません。使用する試験法に従い、測定値と同じ濃度基準で差し引ける値だけを使ってください。

具体例:0.1523 gを50 mLに定容した場合

試料量0.1523 g、定容量50 mL、追加希釈10倍、測定値2.35 µg/L、適用可能なブランク値0.05 µg/Lとします。

  1. ブランク補正:2.35−0.05=2.30 µg/L
  2. 追加希釈補正:2.30×10=23.0 µg/L
  3. 対象成分量:23.0×0.050=1.15 µg
  4. 元試料中濃度:1.15÷0.1523=約7.550886 µg/g

有効数字3桁で表示すると、7.55 µg/g=7.55 mg/kgです。途中の数値は説明用の表示で、実際の計算は途中で丸めません。

ここで求めた1.15 µgは、装置が消費した溶液中の量ではなく、50 mLの定容液全体に対応する量です。全体から一部を採取して測定しても、同じ濃度の溶液として扱えるなら、濃度に全体積を掛けることで全体の量へ戻せます。

逆算して、入力条件とつながるか確認する

丸め前の結果を使い、逆向きにたどることもできます。

7.550886… µg/g × 0.1523 g ÷ 0.050 L ÷ 10 + 0.05 µg/L=2.35 µg/L

この確認は、式の掛け算・割り算や単位の整合を見るためのものです。同じ誤った試料量を順算と逆算に使えば一致してしまうため、試験記録との照合は別に必要です。

追加希釈なし・ブランクなしの場合

試料0.2500 gを25.0 mLに定容し、そのまま測定して8.00 µg/Lを得た場合を考えます。追加希釈倍率は0ではなく1、ブランク欄は空欄です。

8.00 × 1 × 0.0250 ÷ 0.2500=0.800 mg/kg

追加希釈がないため倍率を1にしても、定容量と試料量による換算は残ります。「希釈していないから測定値8.00がそのままmg/kgになる」ということではありません。

n試料では、それぞれ換算してから平均する

別々に秤量・前処理した試料は、各試料の条件で換算します。例えば次の人工データでは、測定溶液中濃度が異なっても、換算後の濃度は近い値になります。

試料試料量g定容量mL追加希釈倍率測定値µg/Lブランクµg/L結果mg/kg
11100110補正なし1.00
20.55026.511.10
30.220520.20.900

平均は1.00 mg/kgです。試料量や希釈条件が異なる測定値を先に平均すると、この結果を正しく求められません。

各試料について、まず次の式で個別結果を求めます。

Rᵢ=(Cᵢ−Bᵢ)×Dᵢ×(Vᵢ÷1000)÷mᵢ

例えば試料2は、(6.5−1)×2×0.050÷0.5=1.10 mg/kgです。3つの個別結果がそろった後で、(1.00+1.10+0.900)÷3=1.00 mg/kgと平均します。本ツールの平均は各試料を等しく扱う算術平均であり、試料量で重み付けした平均ではありません。

この3例の標本SDは0.100 mg/kg、RSDは10.0%です。SDの分母はn−1で、計算途中では個別結果を丸めません。同じ元試料を代表する反復試験であることを確認して集計してください。異なる試料や元素をまとめた数値は、この用途の反復試験の平均とは意味が異なります。

この計算で扱わない補正

結果は入力した試料質量を基準とします。乾燥重量換算、水分補正、回収率補正、完全分解の確認は別に必要です。試験目的に適した前処理を選ぶ必要があることは、ICP-MSの公開試験法でも説明されています。EPA Method 6020B、第1.1節

特に、抽出液から計算した値をそのまま「試料の全含有量」と呼べるかは、この換算式だけでは決まりません。式が行うのは溶液中の対象成分量を試料質量で割ることです。どの成分がどの程度溶液へ移るかは前処理の条件に依存するため、結果には必要に応じて試験法や抽出条件を添えます。

また、液体試料を体積で採取して元試料のmg/Lを求めるケースは、現在のツールの対象外です。試料量欄はgなので、採取したmLをそのまま入力しないでください。

ツールで計算するとき

Chem-Analyses Lab(ケム・アナリシス・ラボ)のICP試料濃度換算ツールでは、独立して秤量・前処理した試料数nを指定し、各試料の条件を入力します。個別結果、平均、標本SD、RSDと計算過程を確認できます。出力は有効数字3桁の表示であり、報告値の桁数を自動決定するものではありません。

試験記録を横に置き、まず試料1の5項目を入力します。nを増やすと定容量・追加希釈倍率・ブランク値を引き継げますが、試料量と測定値は各試料の値を入力します。条件が異なるカードは修正し、計算後に結果一覧と各試料の入力条件を照合します。

よくある疑問

ICP-MSとICP-OESで式は変わりますか?

同じ「測定溶液中濃度µg/L」から、同じ調製条件で質量当たり濃度に換算する限り、ここで示した単位計算は共通です。ただし、測定値を得るための校正や干渉補正まで共通という意味ではありません。

ブランク補正後が負なら、0にしてよいですか?

本ツールは計算値を負のまま表示します。負の計算結果、検出の有無、報告時の表記は別の問題です。0や不検出への置換をこの計算だけで決めず、適用する試験法の扱いを確認します。

「抽出後の全量」が分からない場合も計算できますか?

この式には最終液量が必要です。使用した溶媒の添加量を根拠なく代用せず、調製記録に戻って確認します。定容操作をしていない方法では、実際の試験法に定められた量と式を用います。

関連記事:希釈倍率の考え方濃度計算で起こりやすいミス

本ツールは計算補助を目的としています。結果は使用する試験法、規格、SOP等に基づいて確認してください。