黒いゴム製品を見て「ゴムが主成分」と考えるのは正しいものの、それだけでは性能を説明できません。加硫ゴムは、土台となるポリマー、形や強さを調整する配合剤、分子同士をつなぐ加硫・架橋系を組み合わせた材料です。同じポリマーでも配合が違えば硬さや耐摩耗性は変わり、別のポリマーを混ぜることもあります。このシリーズでは、第1回で材料の全体像をつかみ、第2回でポリマー同定へ進みます。
まず「ポリマー」を選ぶ:ゴムは一種類ではない
天然ゴムはゴムノキの樹液から得られ、合成ゴムは目的に合わせてモノマーを重合して作ります。名称や略号はJIS(日本産業規格) K 6397とISO(国際標準化機構) 1629:2025の体系を参考にします。以下の略号は各名称の初出だけに示します。
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| 分類 | 代表的なポリマー | 特徴と製品例のイメージ |
|---|---|---|
| 天然ゴム | 天然ゴム(NR) | 伸びや反発、引裂きへの強さが求められる部材。耐候性や耐油性は配合・使用条件も考える |
| 汎用合成ゴム | スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR) | タイヤや一般工業製品で広く利用。耐摩耗、低温での柔軟性などを調整する |
| 耐油性などを重視する合成ゴム | アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、クロロプレンゴム(CR) | 油に触れるシール・ホースなど。ただし耐性は接触する液体や温度で変わる |
| 気体を通しにくいゴム | ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(CIIR)、臭素化ブチルゴム(BIIR) | タイヤのインナーライナーなど。塩素化・臭素化の種類もある |
| 耐候・耐熱用途で使われるゴム | エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM) | 屋外シール材など。一般に鉱物油への耐性は高くない |
| 特殊ゴム | エピクロルヒドリン系ゴム(CO・ECO・GECO)、シリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM) | 使用温度、耐薬品性、耐候性などの要求に合わせて選ぶ。名称が同じでも共重合単位やグレードは多様 |
この表は「材料を一つ選べば性能が決まる」という意味ではありません。たとえばタイヤは複数のゴムを使い分け、補強材や架橋の設計も変えます。また、製品名や色だけではポリマー種を決められません。ポリマーの同定は第2回で、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー(熱分解GC)、固体核磁気共鳴法(固体NMR)、蛍光X線分析法(XRF)を組み合わせて考えます。
ポリマーはブレンドされることもある
一つのゴム製品にポリマーが一種類だけ入っているとは限りません。例えばタイヤの部位によっては、スチレン・ブタジエンゴムとブタジエンゴムなどを組み合わせ、路面へのグリップ、摩耗、低温での柔軟性などのバランスを調整します。天然ゴムと合成ゴムを混ぜる設計もあります。ブリヂストンの材料解説も、タイヤに天然ゴムと合成ゴム、カーボンブラックやシリカなどが用いられることを示しています。「分析で一種類のポリマーが見つかった=ほかは入っていない」ではありません。 少量成分が見えにくい場合もあるため、第2回ではブレンドの検出も取り上げます。
配合剤は何のために加える?
料理の材料にたとえるならポリマーは生地です。ただし、配合剤は単なる味付けではなく、強度、加工しやすさ、長期安定性を大きく変えます。下表の役割は代表例で、同じ物質が複数の役割を持つこともあります。
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| 配合剤の群 | 代表例 | 主な役割 | 分析時に気を付ける点 |
|---|---|---|---|
| 補強材 | カーボンブラック、シリカ | 強さ、摩耗への抵抗、硬さなどを調整 | 黒色ゴムではカーボンブラックが赤外測定を難しくする。シリカと他の無機充填剤は目的が異なる場合がある |
| 加硫・架橋系 | 硫黄、有機過酸化物、金属酸化物など | ポリマー鎖をつないで、弾性や形状保持性を与える | すべてのゴムが硫黄で加硫されるわけではない。残留量だけで架橋構造は決められない |
| 加硫促進剤 | チアゾール系、スルフェンアミド系など | 硫黄加硫の速度や進み方を調整 | 加硫中に反応・分解するため、製品から原料配合量を直接読み取るのは難しい |
| 加硫活性剤・共活性剤 | 酸化亜鉛、ステアリン酸 | 硫黄と加硫促進剤が働く反応を助け、加硫の進み方を整える | 両者は製造中に反応し得る。亜鉛の検出量を酸化亜鉛の仕込み量と同一視しない |
| 老化防止剤 | アミン系、フェノール系など | 熱、酸素、オゾンによる劣化を抑える | 使用中に消費・移行するため、製造時の配合と現物の含有量は一致しないことがある |
| 軟化剤・可塑剤 | 石油系軟化剤、エステル系可塑剤など | 混練・成形を助け、柔軟性を調整 | 抽出・移行・揮発が起こり得る。用途により種類を使い分ける |
| 無機充填剤 | 炭酸カルシウム、クレー、タルクなど | 硬さ、寸法安定性、加工性、コストなどを調整 | 無機元素が検出されても、それだけで化合物名や用途は決められない |
| シランカップリング剤 | 硫黄含有シランなど | シリカとゴムの結び付きを助ける | シリカ配合系で重要だが、反応後は添加前と同じ形で残るとは限らない |
| 粘着付与剤 | 炭化水素樹脂、ロジン系樹脂など | 未加硫ゴムの貼り合わせや加工時の粘着性を調整 | ポリマー由来成分と分析信号が重なることがある |
| 発泡剤(スポンジゴムなどに使用) | 加熱時にガスを生じる化学発泡剤など | 製品内に気泡を作り、軽量化や圧縮時の柔らかさを得る | すべてのゴム製品に入るわけではない。製品中に元の発泡剤がそのまま残るとは限らない |
酸化亜鉛・ステアリン酸は、なぜ一緒に使う?
硫黄加硫の配合では、酸化亜鉛は加硫活性剤、ステアリン酸はその働きを助ける共活性剤として使われます。両者は製造中に反応して亜鉛の脂肪酸塩などを生じ、加硫促進剤を含む反応系が働きやすくなります。「酸化亜鉛が硫黄と同じ架橋剤になる」「ステアリン酸は単なる軟化剤である」と考えると役割を取り違えます。ただし、全ての加硫・架橋系にこの組合せが必要なわけではありません。酸化亜鉛メーカーの技術説明も参照してください。
発泡剤は、どんな製品で使う?
密実なゴム板やシールとは異なり、スポンジゴムには小さな気泡があります。化学発泡剤は加熱・加硫工程でガスを生じ、ゴムの中に気泡を作ります。発泡の進む速さと加硫で形が固まる速さのバランスが悪いと、気泡の大きさや製品密度がばらつきます。発泡剤は必要な製品に選択して使う配合剤です。スポンジゴム製造の解説も参照してください。
カーボンブラックは黒色にするためだけの材料ではありません。ブリヂストンの材料解説でも、カーボンブラック、シリカ、硫黄の役割が紹介されています。シリカの表面とゴムはそのままでは結び付きにくいことがあり、シランカップリング剤を併用する設計があります。一方、炭酸カルシウムなどの無機充填剤を一括して「補強材」と呼ぶと、狙った機能の違いを見落とします。
「100部に対して何部?」— 配合表の読み方
ゴムの配合では、ポリマー100質量部に対する各材料の質量部(phr、parts per hundred rubber)で表すことがあります。たとえばポリマー100質量部、カーボンブラック50質量部、軟化剤10質量部なら、混合前の合計は160質量部です。このときカーボンブラックは「製品の50質量%」ではなく、単純計算で 50÷160=31.25質量% です。さらに加硫反応、揮発、洗浄、使用中の移行があれば、製品を分析した値と仕込み量は一致しません。
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| 配合表の数字 | 意味 | 間違えやすい読み方 |
|---|---|---|
| ポリマー 100 phr | 比較の基準となるポリマーの質量 | 製品全体の100質量%ではない |
| カーボンブラック 50 phr | ポリマー100質量部に対し50質量部を仕込む | 製品中50質量%ではない |
| 軟化剤 10 phr | ポリマー100質量部に対し10質量部を仕込む | 分析時に必ず10質量部残るわけではない |
製品別の配合表を比べる
次の数字は、材料の役割とphrの読み方を説明するために作った模式的な仕込み例です。実在の製品の処方や推奨配合ではありません。「—」はこの模式例では仕込まないことを表します。実際のタイヤではトレッド、側面、内面などで配合が異なり、繊維・鋼線などゴム以外の構成材も使われます。
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| 原料(phr) | 自動車タイヤのトレッド例 | 水道用パッキン例 | オイルシール例 |
|---|---|---|---|
| ポリマー | スチレン・ブタジエンゴム 70 + ブタジエンゴム 30 | エチレン・プロピレン・ジエンゴム 100 | アクリロニトリルブタジエンゴム 100 |
| カーボンブラック | 35 | 60 | 50 |
| シリカ | 25 | — | — |
| シランカップリング剤 | 3 | — | — |
| 無機充填剤 | — | 20 | — |
| 軟化剤・可塑剤 | 12 | — | 8 |
| 酸化亜鉛 | 3 | 5 | 5 |
| ステアリン酸 | 2 | 1 | 1 |
| 硫黄 | 1.5 | 1.5 | 1.5 |
| 加硫促進剤 | 1.5 | 2 | 2 |
| 老化防止剤 | 2 | 1.5 | 1.5 |
この例では、タイヤのポリマー70+30が合計100 phrです。補強材が多いのは摩耗や強さを意識した模式例です。水道用パッキンは水との接触、オイルシールは油との接触を想定してポリマーを変えています。ただし、用途名だけで使用可能な材料は決まりません。とくに飲料水に触れる製品は、硬さや圧縮特性だけでなく、適用されるJIS K 6353:2023などの要求と、接触水への成分の溶出を確認します。オイルシールでも接触する油の種類、温度、回転条件によって材料選定が変わります。
初心者が混同しやすい三つの点
- 色からポリマーを決めない。 黒いのはカーボンブラックの影響かもしれず、天然ゴムとは限りません。
- 硫黄の検出だけで加硫方法を決めない。 硫黄は別の配合剤にも含まれ、硫黄を使わない架橋系もあります。
- 分析値をそのまま配合表とみなさない。 加硫・劣化・移行・抽出により、製品中の化学形態や量は仕込み時から変わります。
第2回「加硫ゴムのポリマーをどう同定する?」では、ここで挙げた多様なポリマーを実際の製品からどう見分けるかを説明します。
