Chem-Analyses LabICP試料濃度換算ツール

分析ノウハウ

ICP-MS/OESの濃度計算で起こりやすいミス

分析ノートと計算機を虫眼鏡で確認するイラスト
数値・単位・補正の段階を、一つずつ照合する。イメージイラスト

計算結果が想定と合わないときは、まず入力値の単位と補正の段階を確認します。ここでは、ICP試料濃度換算ツールの入力時に確認したい点をまとめます。例は説明用の人工データであり、ミスの発生頻度を調査したものではありません。

結果のずれ方から、確認する記録を絞る

見えている状況最初に確認するもの
ちょうど1000倍・1000分の1に近いmg/Lとµg/L、mLとL、mgとg
10倍・50倍など希釈倍率に近いずれ希釈補正の二重適用、再測定時の倍率更新
1試料だけ他と大きく違うその試料の秤量値、定容量、入力行と測定結果の対応
同じ前処理液なのに再測定で変わる使用した希釈液、採用した出力列、総希釈倍率
ブランク補正後だけ負になるブランク適用の可否、同じ濃度基準か、補正済みか
平均は近いのにRSDが違う個別値、n数、SDの定義、丸めた値の使用有無

この表は原因を断定するものではありません。結果を期待値に合わせるために倍率を変えるのではなく、元の記録と一致する入力を復元するために使います。

1. mLとL、mg/Lとµg/Lを取り違える

50 mLは0.050 Lです。測定濃度µg/Lに50を直接掛けると、体積による換算が1000倍になります。また、1 mg/L=1000 µg/Lです。本ツールの測定値欄はµg/L固定なので、装置出力がmg/Lなら単位をそろえてから入力します。

例えば、装置出力0.010 mg/Lは10 µg/Lです。試料1 g・定容量100 mL・追加希釈なしなら、正しい換算値は1.00 mg/kg。0.010をそのままµg/L欄へ入力すると0.00100 mg/kgとなり、1000分の1になります。

試料量にも同じ確認が必要です。秤量記録が150 mgなら、g欄には0.150を入力します。150と入力すると1000倍大きい質量で割るため、結果は1000分の1になります。「小数点をずらした記憶」ではなく、数値と単位を一緒に照合します。

2. 希釈倍率を二重に掛ける

装置ソフトで10倍補正された結果に、さらに10を掛けると10倍大きな値になります。出力列名だけで判断できない場合は設定と試験記録を確認します。本ツールには、追加希釈補正・元試料換算前の測定溶液中濃度を使用します。

試料1 g、定容量100 mL、追加希釈10倍、補正前の測定値2 µg/Lなら結果は2 mg/kgです。装置で追加希釈補正した20 µg/Lを入力してD=10とすると20 mg/kgになります。確認すべきなのは「どちらがもっともらしいか」ではなく、2と20がそれぞれどの段階の値かです。

3. 定容量に添加した酸の量を入れる

分解時に酸を5 mL使用し、その後50 mLに定容した場合、入力する定容量は50 mLです。添加量、採取量、最終定容量を分けて記録します。

このケースで5 mLを入れると、他の条件が同じなら結果は正しい値の10分の1になります。確認する記録は酸の分注欄ではなく、分解・抽出後の最終液量の欄です。定容しない前処理法では、50 mL等の典型値を当てはめず、その方法で使う実際の量と計算式を確認します。

4. ブランクを条件確認なしに減算する

同じµg/L表記でも、試料とブランクの希釈条件が異なると、そのまま差し引けるとは限りません。本ツールのブランク欄は、測定値と同じ濃度基準で減算できる値を対象とします。試験法上の扱いを確認し、既に補正済みなら空欄にします。

ブランクの役割は計算補正だけではありません。例えばEPA Method 6020B第9.7.1節では、メソッドブランクを汚染の確認に用い、関連試料からその値を差し引かないよう示しています。本ツールに減算機能があっても、その試験法で減算してよいことにはなりません。EPA Method 6020B、第9.7.1節

確認は次の順に進めます。

  1. 使用する試験法で、そのブランク補正を行ってよいか。
  2. 手元の測定値に、既に同じ補正が適用されていないか。
  3. ブランクが試料と同じ測定溶液の濃度基準になっているか。

測定値0.05 µg/Lからブランク0.10 µg/Lを引けば、計算上は−0.05 µg/Lです。負になったことだけで「試料に対象成分が存在しない」とは結論できません。また、数値が正になるまでブランクを変更することも適切な確認ではありません。元の測定値を保持し、条件と試験法上の扱いを確認します。

5. 別々に前処理した試料の測定値を先に平均する

試料量や希釈倍率が異なる場合は、各試料をmg/kgへ換算してから平均します。本ツールのnは、別々に秤量・前処理した試料数です。同じ試料溶液を装置で3回読み取った回数とは区別します。

同じ元試料・元素・質量基準の反復試験をまとめ、異なる製品や試料群を1つの平均に混ぜないようにします。

例えば、ブランク補正なしで、試料1がm=1 g、V=100 mL、D=1、C=10 µg/Lなら1 mg/kgです。試料2がm=0.5 g、V=100 mL、D=1、C=5 µg/Lでも1 mg/kgになります。

先に測定値を平均して7.5 µg/Lとし、試料1の条件だけを適用すると0.75 mg/kgになり、個別換算後の平均1 mg/kgと一致しません。平均する前に、各結果を同じ試料濃度の単位へそろえる必要があります。

n数についても、1つの前処理液を3回測った場合と、3つを別々に秤量・前処理した場合を区別します。前者には独立した前処理の繰り返しが含まれません。本ツールには後者のn数を入力します。

6. RSDだけで結果の良否を決める

本ツールは換算後濃度から、分母n−1の標本SDと、平均が正の場合に100×SD÷平均でRSDを表示します。n=1ではSD・RSDは算出対象外です。平均が0以下の場合にRSDを表示しないのは本ツールの仕様です。

平均が0付近では、平均の小さな変化でCVが大きく変わることがNISTでも説明されています。RSDだけで合否を決めず、濃度水準や試験条件と合わせて解釈します。NIST:Coefficient of Variation

換算後の3結果mg/kg平均mg/kg標本SD mg/kgRSD
0.900、1.00、1.101.000.10010.0%
0、0.100、0.2000.1000.100100%

この人工例ではSDが同じでも、平均が10分の1になるとRSDは10倍です。RSDが大きいという情報だけでは、ばらつきの絶対量が増えたのか、平均が小さいためなのかを区別できません。個別値・平均・SDを一緒に見ます。

他の計算表と比較するときは、SDの分母がn−1かnかも確認します。0.900、1.00、1.10の標本SDは0.100ですが、分母をnとすると約0.0816です。同じ入力なのに違う値になる場合、入力ミスに加えて計算定義の違いも候補になります。本ツールのSDは標準誤差SD/√nとも区別してください。

7. 表示桁数をそのまま報告値の桁数にする

本ツールの有効数字3桁は表示上の設定です。測定不確かさや報告規則から桁数を自動決定していません。中間結果を丸め直して再計算すると差が出るため、計算は丸め前の値で行い、最終的な報告形式を別途確認します。

例えば、丸め前の個別結果が1.001、1.002、1.003 mg/kgなら、平均は1.002、標本SDは0.001 mg/kgです。個別値を先に3桁の1.00、1.00、1.00へ丸めてからSDを計算すると0になります。画面上で個別値が同じでも、内部計算から得たSDが0とは限らない理由はここにあります。

8. mg/kgを乾燥重量基準だと思い込む

mg/kgという単位だけでは、乾燥重量基準か、秤量時の質量基準かは分かりません。本ツールは入力した質量をそのまま使用し、水分補正を行いません。記録と報告に必要な質量基準を確認してください。

結果を比較する際は、単位が同じことに加え、秤量時の状態、前処理方法、報告の基準が一致しているかを見ます。計算値だけが一致しても、測っている対象や基準が異なれば同じ意味の結果とは限りません。

計算後は途中式で照合する

入力条件、ブランク補正、追加希釈補正、対象成分量、試料中濃度の順に確認します。負の補正結果を自動で0に置き換えたり、不検出と読み替えたりせず、適用する試験法に戻って扱いを確認します。

一度に多くの欄を変更すると、どの違いが結果に影響したか分かりにくくなります。まず1試料を選び、秤量記録・調製記録・装置出力を対応付けます。数値と単位を1項目ずつ照合し、違いが見つかった項目だけを修正して再計算します。

計算と入力が一致しても疑問が残る場合は、換算式を調整してつじつまを合わせず、測定・前処理・試料の側へ調査範囲を広げます。次の情報がそろっていれば、計算の問題と分析の問題を分けて相談しやすくなります。

  • 元の測定値と単位、補正の適用状況
  • 試料量、最終定容量、希釈履歴、採用した測定の対応
  • 試料ごとの換算値と、比較したい値がどの質量基準か
  • どの項目を確認・修正し、結果がどう変わったか

入力内容は本ツールに永続保存されません。確認経緯は元の試験記録に残してください。

関連記事:mg/kgへの換算方法希釈倍率の考え方

本ツールは計算補助を目的としています。結果は使用する試験法、規格、SOP等に基づいて確認してください。