「化学構造式を資料に入れたいけれど、専用ソフトの導入は大変」。そんなときは、ブラウザーで使える無料の化学構造式描画ツール Chemlioraを試せます。登録やインストールは不要です。ここでは酢酸エチルを例に、構造式を作る、式を確かめる、参考スペクトルを読む、画像と編集用データを保存するまでを一緒に進めます。

最短なら、Chemlioraを開いて 「ファイル → SMILES(分子構造の線形表記法)を入力」 を選び、CC(=O)OCC を貼り付けて「構造を生成」を押します。後は描かれた構造と分子式を確認してください。Chemlioraの現在の画面では、酢酸エチルの分子式 C₄H₈O₂、分子量 88.11 g/mol が表示されます。PubChem:Ethyl Acetate

酢酸エチルの構造とChemlioraで確認する点
酢酸エチルはCH₃–C(=O)–O–CH₂–CH₃。炭素4個、酸素2個、エステル結合を確認します。

まず構造を作る:SMILES入力で1分の実例

  1. Chemlioraを開く。
  2. 上の 「ファイル」 を開き、「SMILESを入力」 を選ぶ。
  3. 入力欄へ CC(=O)OCC を貼り付け、「構造を生成」 を押す。
  4. キャンバスに炭素4個・酸素2個の構造が出たら、C=Oの隣にO–CH₂–CH₃がつながるエステルになっているか確認する。
  5. 画面の組成式 C₄H₈O₂ と分子量 88.11 g/mol を照合する。

SMILESは分子のつながりを文字で表す方法です。入力文字列の並びは一通りではありません。PubChemは酢酸エチルを CCOC(=O)C とも記載しますが、これも同じ結合関係を別の方向から読んだ表現です。分子式が合うだけでは異性体を区別できないため、最後にC=Oと二つのC–Oのつながりを目で確認します。PubChem:構造とSMILES

SMILES入力から画像保存までの操作フロー
ファイルからSMILESを入力し、構造を確認して、書き出しと編集用保存を使い分けます。

マウスで描きたい場合

SMILESを知らなくても、左の「基本・結合」で単結合・二重結合を、右の元素欄でOを選んで描けます。酢酸エチルでは CH₃–C(=O)–O–CH₂–CH₃ を先に紙に書き、炭素骨格、カルボニルの二重結合、単結合の酸素という順に置くと確認しやすくなります。描き間違いは「元に戻す」で直し、配置は「構造を整える」で調整できます。末端と折れ点は、元素記号を書かない限り通常は炭素を表します。

実際の画面で照合する:何が合えば構造を確認したと言えるか

SMILESから生成した酢酸エチルのChemliora操作画面。C₄H₈O₂、精密質量88.0524 Da、分子量88.11 g/molと、酸素2個の結合関係を表示
2026年10月19日に確認したChemliora Ver. 15.3.1の実際の操作画面。CC(=O)OCCを入力し、明るいテーマで表示したものです。化学物質を測定した結果ではありません。

この画面では C₄H₈O₂、88.0524 Da、88.11 g/mol、原子6・結合5 を確認しました。原子数6は、線の端・折れ点の炭素4個と、記号で示す酸素2個を数えたものです。省略された水素8個まで含めた総原子数ではありません。結合5も原子間の接続数で、二重結合を2本分として足した値ではありません。

同じ分子式でも同じ構造とは限らない

同じ手順で次の文字列を一つずつ入力すると、何を照合すべきかを確かめられます。比較する前の作業はJSON(JavaScript Object Notation)で保存しておいてください。

↔ 表が見切れている場合は、左右にスクロールしてご覧ください。↔ Scroll the table horizontally to see any hidden columns.

入力するSMILES表す構造確認したい点
CC(=O)OCC酢酸エチルC=Oに隣接するOの先へ炭素2個がつながる
CCOC(=O)C同じ酢酸エチルを別の順で記述配置の向きが変わっても、原子同士のつながりが同じ
CCCC(=O)O酪酸(ブタン酸)分子式は同じC₄H₈O₂でも、末端がカルボン酸になっている

三つ目も同じ分子式と同位体組成なら計算上の精密質量は同じです。分子式や質量の一致だけで、物質名や異性体を確定しないことが、この比較で確かめたい点です。文字列の一致ではなく、C=OとOの結合先まで確認してください。

保存した画像と編集データを確認する

画像を書き出したら、貼り付け先でC=Oの二重線、酸素の記号、線の端が欠けていないかを見ます。編集用JSONは読み込み直し、結合関係と注記が保持されるか確認します。別のツールへ渡すMOL(MDL Molfile形式)やSDF(Structure Data File形式)では、ファイルを受け取る側でも開いて確かめます。

この確認で分かるのは、入力した構造の表示・保存の状態です。試料の同定、実測スペクトルとの一致、予測精度の検証とは分けて扱います。今回の画面で確認した項目を、他の化合物やすべての対応形式へ一律に広げて解釈しないでください。

参考スペクトルで「どの部分が見えているか」を学ぶ

構造を作ったら、上の 「構造・解析」 から予測画面を開けます。これは構造の特徴を理解する補助です。実測スペクトルや同定の根拠には使いません。

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開く画面この例で見る点読み方の注意
IR(赤外線)スペクトル予測エステルのC=O伸縮、C–O伸縮の候補が表示される試料状態を選べる。表示は2次元構造と経験則による概算で、実測値ではない
¹H NMR(核磁気共鳴)概略予測酢酸側CH₃の3H、O–CH₂の2H、末端CH₃の3Hを対応づけるシフト範囲・中心と分裂は参考。J値は例示値、実測精度は未評価
マススペクトル予測(EI:電子イオン化)分子イオンや断片化候補の位置を眺める70 eVの参考予測。ピークの有無・強度は実測やライブラリと照合する

2026年10月19日にVer. 15.3.1で確認したところ、酢酸エチルを「液体」の設定でIR予測すると、ピーク表にはエステルC=O伸縮の候補が 1768–1732 cm⁻¹、C–O関連の候補も表示されました。¹H NMRは「計算化学モデル」、400 MHz、線幅1 Hzで、3H・2H・3Hの三つの信号群と、概略の分裂 s・q・t を確認しました。数値はモデルや設定、版によって変わり得ます。読みたいのは「どの官能基や水素が、どの信号と結びつくか」です。

酢酸エチルのIRとNMRを読む模式図
IRではエステルのC=OとC–O、¹H NMRでは3H・2H・3Hの三つの環境を対応づけます。数値は実測ではありません。

ピーク表の行やグラフを選ぶと、対応する原子や結合を画面上で強調できます。構造式と信号を往復して見るのが、このツールを学習に使ういちばん分かりやすい方法です。分析報告では、標準品・実測スペクトル・信頼できる資料を優先してください。

PNG・SVG(Scalable Vector Graphics)・編集用JSONを保存する

構造式ができたら、用途に合わせて保存形式を選びます。

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目的操作向く用途
レポートやスライドに貼る書き出し → PNG画像そのまま使える画像。大きく拡大すると輪郭が粗くなる場合がある
拡大しても線を鮮明に保つ書き出し → SVG画像印刷物、拡大する資料、Web掲載
後日Chemlioraで続きから編集するファイル → JSONファイルを保存原子・結合などを編集可能な状態で保管

PNGやSVGを書き出した後は、酸素、二重結合、文字の欠落がないかを画像の確認画面で見ます。ブラウザーの自動保存だけに頼らず、再編集する構造はJSONも保存してください。別の端末へ移す場合にもJSONを使えます。ChemlioraはSMILES、MOL、SDF、CDXML(ChemDraw XML形式)などの読込・保存にも対応しますが、図中の注記などを含めて確実に再編集したい場合はJSONが基本です。

よくある疑問

無料で、アカウントなしでも使えますか?

はい。Chemlioraは登録・インストール不要で使えます。描画とSMILESの解析はブラウザー内で行われます。作業を確実に残したい場合は編集用JSONを自分で保存します。

スマートフォンでも操作できますか?

利用できます。キャンバスは2本指で拡大・縮小、移動ができます。細かい結合や元素の配置は、画面を拡大して確認してください。

予測スペクトルで物質を同定できますか?

できません。IR、EI-MS(電子イオン化質量分析)、¹H NMRはいずれも参考・学習用です。測定条件、異性体、立体構造、配座、試料状態などによって実測と異なるため、同定は実測値と標準品・信頼できる資料で確認します。

次の一歩

まずはChemlioraで酢酸エチルを開き、構造式を作るところから試してください。SMILES入力 → 結合と分子式の確認 → SVGまたはPNGの書き出し → JSONの保存までできれば、ほかの小分子でも同じ手順を使えます。機能や注意点を詳しく知りたいときは、ツール画面の「使い方」を参照してください。