水の硬度は、主にカルシウムとマグネシウムの量を表します。 日本の水にも採水地による違いがあり、海外の水がすべて硬水というわけではありません。天然水の成分と硬度を同じ単位で比べ、地域差と用途を読み解きます。

日本の天然水の硬度比較を見る

同じ透明な水なのに、飲むと軽く感じるものも、しっかりした口当たりのものもあります。ボトルに書かれた「硬度」は、その違いを考える手がかりです。

ただし、硬度は水の品質を順位づける点数ではありません。まずは何の量を表す数字なのかを知り、採水地と成分表示を一緒に読んでみましょう。

硬度の主役はカルシウムとマグネシウム

水の硬度は、主に水中のカルシウムイオン(Ca²⁺)とマグネシウムイオン(Mg²⁺)の量を表す指標です。これらが少ない水を軟水、多い水を硬水と呼びます。

成分表示にはナトリウム、カリウム、シリカなども載りますが、これらを全部足した数字が硬度になるわけではありません。ミネラルの総量と硬度は別の指標です。USGS(米国地質調査所)の解説

一般的な計算式は次のとおりです。

硬度[mg/L、炭酸カルシウム換算] ≈ カルシウム[mg/L]×2.5 + マグネシウム[mg/L]×4.1

「炭酸カルシウム換算」は、二つの成分を共通の物差しで表すための換算です。ボトルの中にその量の炭酸カルシウムの粉が入っている、という意味ではありません。計算式の説明

例えば、100mL当たりカルシウム2.0mg、マグネシウム0.5mgなら、1L当たりではそれぞれ20mg、5mgです。計算すると20×2.5+5×4.1=70.5mg/Lになります。ラベルが「100mL当たり」か「1L当たり」かを先に確認するのがポイントです。

ラベルのCaとMgを1L当たりに直して硬度を計算する図
100mL当たりの数値を10倍してから、CaとMgを炭酸カルシウム換算で足します。

軟水と硬水の境目は一つではない

USGSの一般的な区分では、炭酸カルシウム換算で0~60mg/Lが軟水、60mg/L超~120mg/Lが中程度の硬水、120mg/L超~180mg/Lが硬水、180mg/L超が非常な硬水です。

一方、商品説明などでは別の境目が使われることがあります。「軟水」「硬水」の呼び名だけで比べず、同じ単位の硬度を確認すると迷いにくくなります。USGSの区分

地域差は、水が通ってきた地層の違い

雨として降った水は、土や岩石を通る間に成分を溶かし込みます。石灰岩などカルシウムを含む地層を通れば、硬度が高くなることがあります。地質に加え、地下での滞留時間や、河川水・地下水のどちらを利用するかも関係します。

つまり国境そのものが硬度を決めるのではありません。同じ国の中にも違いがあり、採水地が変わればボトルの成分も変わります。東京都水道局の地域差の解説

日本:低めの水が多いが、全国一律ではない

日本では、地中での滞留時間や河川延長が短い場合、硬度は低めになる傾向があります。一方、地下水を水源とする水道は、表流水を水源とする場合より高くなる傾向があります。

東京都水道局の令和5年度の例では、蛇口の硬度は平均60mg/L程度、測定地点によって25.3~87.6mg/Lでした。これは東京の水道水の例で、日本のミネラルウォーター全体の範囲ではありません。東京都水道局

日本の身近なボトルでも、採水地による違いを確認できます。例えば、メーカーが公表している次の製品の硬度は、約10~80mg/Lです。

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採水地・水源名製品の例公表硬度
南アルプスサントリー天然水(南アルプス)約30mg/L
北アルプスサントリー天然水(北アルプス)約10mg/L
奥大山サントリー天然水(奥大山)約20mg/L
阿蘇サントリー天然水(阿蘇)約80mg/L
富士山アサヒ おいしい水 富士山のバナジウム天然水約30mg/L
六甲アサヒ おいしい水 天然水 六甲 PET600ml約40mg/L
日田(大分県日田市)日田天領水約27mg/L

出典:サントリーの採水地別硬度、アサヒ飲料の成分一覧、六甲の製品情報、日田天領水の公式FAQ。2026年10月12日確認。日田天領水には約32mg/Lとする販売サイトの記載もありますが、ここではメーカー公式FAQの約27mg/Lを採用しています。

これらは、特定の製品についてメーカーが示す値です。「阿蘇の水はすべて80mg/L」「富士山の水はすべて30mg/L」という地域平均ではありません。同じブランドでも採水地で硬度が異なるため、手元のボトルの採水地と表示を確認することが大切です。

また、メーカーが「軟水」と呼ぶ製品でも、前述のUSGSの区分では中程度の硬水に入る場合があります。分類の違いによるもので、表示の矛盾とは限りません。

欧州:同じフランス産でも大きな違いがある

欧州には、石灰質の地層の影響を受けて硬度が高くなる地域があります。英国南東部の水道事業者Thames Waterも、石灰質の地質と水の硬度の関係を説明しています。ただし「欧州の水はすべて硬水」とは言えません。Thames Water

ボトルの例では、フランス産のevianの公表値はカルシウム80mg/L、マグネシウム26mg/L。上の近似式で硬度を計算すると約307mg/Lです。同じフランス産のVolvicは、英国向け公式表示でカルシウム12mg/L、マグネシウム8mg/Lなので、約63mg/Lになります。

これは公表された成分値からの概算で、国の平均値ではありません。原産国が同じでも、採水地ごとに成分が異なることが分かります。evian公式成分、Volvic公式成分

日本の天然水7製品とフランスの2製品の硬度を比較した棒グラフ
日本はメーカー公表硬度、フランスは公表Ca・Mg濃度からの概算。地域平均ではありません。

米国:広い国土の中で水源による差がある

USGSの調査では、米国の東中部や西部の地下水に硬水が多いことが示されています。ただし水源となる帯水層などによって差があり、「米国産だから硬水」と決めることはできません。現地の水道水なら地域の水道事業者、ボトルなら製品の成分表示を確認します。USGSの地域比較

中国:全国調査でも成分の幅が広い

中国314都市の公共飲料水を対象とした研究では、カルシウムが2.5~155.1mg/L、マグネシウムが0.2~81.9mg/Lと、幅広い値が報告されています。研究は地域差に気候と水・岩石の相互作用が関係すると説明し、特に中国南部の低硬度の水にも着目しています。「中国は一律に硬水」という見方では、この地域差を説明できません。

平均濃度のカルシウム40.4mg/L、マグネシウム12.4mg/Lを同じ近似式に入れると、硬度は約152mg/Lです。ただし、これは研究試料の平均濃度からの概算で、中国の市販ミネラルウォーターの平均ではありません。またCaとMgの最小値・最大値は、同じ試料で得られたとは限らず、端の値を組み合わせて硬度の範囲を計算してはいけません。

中国についても、国名だけで軟水・硬水を決めず、採水地・水源・個別の成分表示を見ます。Pengらの研究(2023年掲載)

白い付着物や石けんの泡立ちにも関係する

硬度は飲む水の表示だけでなく、暮らしの中でも顔を出します。加熱した水から炭酸カルシウムなどが析出すると、ポットなどに白いスケールが付くことがあります。またカルシウムなどが石けんと反応すると、石けんかすができ、泡立ちに影響します。USGSの解説

ただし白い付着物だけで硬度の数値は分かりません。同じ硬度でもCaとMgの割合や他の成分が異なるため、味や使い心地まで一つの数字で予測することはできません。

ボトルを比べるときの三つのポイント

  1. 硬度の値と単位を見る。 呼び名だけでなく、mg/Lなどの数字を確認する。
  2. CaとMgを別々に見る。 同じ硬度でも、成分の組み合わせは同じとは限らない。
  3. 原産国より採水地を見る。 国や地域の傾向と、目の前のボトルの成分を分けて考える。

硬度は、おいしさや安全性を丸ごと判定する数字ではありません。WHO(世界保健機関)も硬度について健康に基づくガイドライン値を設定していませんが、それはどんな水でも安全という意味ではありません。微生物や個別の化学物質の管理は別に必要です。WHOの硬度ファクトシート

次に水を選ぶときは、硬度に加えてカルシウム、マグネシウム、採水地を眺めてみてください。何気ない一本の水から、その水が通ってきた土地の違いが見えてきます。

水の成分を、分析の視点でも見てみよう

飲み物との相性が気になる方は、軟水と硬水でコーヒー・お茶の味はなぜ変わる?もご覧ください。硬度だけでなく、水の成分と抽出の関係を紹介しています。

飲む水の硬度と、分析用水の純度は異なる指標です。化学分析では硬度だけでなく、測定対象の不純物やブランクを確認します。実験室で使う水との違いは、超純水・RO(逆浸透)水・イオン交換水・精製水の選び方で詳しく解説しています。