いつもと同じ豆、同じ茶葉なのに、旅先でいれると味が違う。そんなときは、水の成分も一つの手掛かりです。

次の休日、いつもの一杯を「水だけ変えて」いれてみませんか。コーヒーの酸味、お茶の渋味、カップに残る香り。普段はひとまとめにしている味が、少し違って見えてくるかもしれません。

水はコーヒーやお茶の成分を溶かすだけでなく、溶け出した成分とも関わります。ただし「軟水ならおいしい」「硬水なら濃くなる」と一律には決まりません。硬度に加え、水が酸を中和する性質、豆や茶葉、いれ方の組合せが大切です。

まず知っておきたい、硬度・アルカリ度・pHの違い

軟水と硬水を分ける硬度は、主にカルシウムとマグネシウムの量を表します。一方、味を考えるときは「アルカリ度」にも注目します。

硬度・アルカリ度・pHの違いを三段で整理した図
硬度は成分量、アルカリ度は酸を中和する能力、pHはその時点の状態。似て見えても別の指標です。

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水の指標何を表す?コーヒー・お茶との関係
硬度主にカルシウム・マグネシウムの量飲み物の成分との相互作用を考える手掛かり
アルカリ度酸を中和できる能力酸を加えたときのpH変化に関係
pHその時点の酸性・アルカリ性の程度水や抽出液の状態を示すが、中和能力そのものではない

天然水では炭酸水素イオン(HCO₃⁻)がアルカリ度に寄与することが多くあります。同じ硬度でも、カルシウムとマグネシウムの割合や炭酸水素イオンの量が違えば、味への影響も同じとは限りません。水のラベルのpHだけで、コーヒーの酸味がどう変わるかを判断することもできません。USGS(米国地質調査所):アルカリ度と水

硬度の計算方法や天然水の地域差は、ミネラルウォーターの硬度の記事で詳しく紹介しています。

コーヒーは「抽出」と「酸味の感じ方」を分けて考える

コーヒーをいれると、豆から酸や香りに関わる成分などが水へ移ります。カルシウムやマグネシウムは、それらの成分と相互作用し得ます。

2014年の研究では、計算化学を用いてコーヒーに含まれる成分と陽イオンの結び付きが検討され、水の成分が抽出に関わる可能性が示されました。ただし、これは「硬度を上げれば、どの豆でもおいしくなる」という意味ではありません。Hendonら:コーヒー抽出における溶存陽イオンの役割

さらに2024年には、カルシウム・マグネシウムの塩を抽出前と抽出後に加え、コーヒー中の有機酸を比較した研究が報告されています。その結果は、味の変化を抽出量の増減だけで説明することの難しさを示しています。「味が変わった」と「成分が多く抽出された」は、同じことではありません。 有機酸の抽出をGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)・NMR(核磁気共鳴)で調べた研究

もう一つのポイントがアルカリ度です。炭酸水素イオンなどによる酸の中和は、コーヒーの酸性や酸味の印象に関わります。酸味が穏やかになることを好む人もいれば、豆の明るい酸味が弱くなったと感じる人もいるでしょう。酸味の強さだけで良し悪しを決めず、香りや苦味、後味との釣合いで比べてみてください。

お茶は味だけでなく、色や表面にも違いが出る

緑茶や紅茶にも、水の成分と相互作用するポリフェノールなどが含まれます。水を変えると、味や香りの印象に加え、色や濁りにも違いが現れることがあります。

緑茶・紅茶を異なる水でいれた研究では、成分の抽出と飲み手の好みの両方が調べられています。ここでも、成分が多く出ることと、好まれる味になることは別です。茶種によっても結果が異なるため、「硬水はお茶に向かない」とまとめてしまわない方が適切です。水の組成が緑茶・紅茶の成分抽出と風味に与える影響

紅茶の表面の薄い膜は、水と関係することがある

いれたお茶を置いておくと、表面に薄い膜が見えることがあります。研究では、お茶のポリフェノールと水中のイオンが関わる膜が調べられ、カルシウムや炭酸水素イオン、水の組成、茶種によって膜の性質が変わることが示されています。人工水道水を使った茶の表面膜の研究

ただし、表面の膜と、冷めた紅茶の内部に生じる濁りは同じ現象とは限りません。見た目だけで、水の硬度や茶葉の品質を判定することはできません。

家庭で選ぶなら、いつもの水を基準にする

最初から「最適な硬度」を一つに決めるより、普段の飲用水と、成分表示の異なる水を比べると、自分の好みが分かります。

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比較で知りたいこと見るポイント
コーヒーの酸味が変わる?酸味の強さだけでなく、香り・苦味・後味も記録
お茶の印象が変わる?うま味・渋味・香り・色を分けて比較
同じ硬度でも違う?カルシウムとマグネシウムの割合、可能なら炭酸水素イオンも確認

ラベルに炭酸水素イオンやアルカリ度が載っていなければ、硬度から推定せず「不明」としておきます。国産・海外産という区分だけでも味は決まりません。

休日に試せる、水だけを変える飲み比べ

次の条件は、違いを観察するための家庭向け比較案です。研究で確立された最適レシピを示したものではありません。

飲用水を選び、条件をそろえ、銘柄を隠して比較し、味を記録する四つの手順
水以外の条件をなるべくそろえると、違いを観察しやすくなります。
  1. 飲用の無炭酸水を2種類用意し、硬度と成分表示を記録します。
  2. 同じ豆または茶葉を使い、粉・茶葉の量、水の量、湯温、抽出時間、器具をそろえます。コーヒーは挽き目も同じにします。
  3. 同じ形のカップへ注ぎ、近い温度で少量ずつ比べます。お茶は抽出後に茶葉を取り除くなど、片方だけ抽出が進まないようにします。
  4. 可能なら水の銘柄を隠して、A・Bとして記録します。
  5. 少し冷めた後も比べ、別の日には順番を逆にして試します。

記録は「Aがおいしい」だけで終えず、「Aは酸味がはっきり、Bは後味が穏やか」のように言葉を分けると、次の水選びに役立ちます。

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記録項目水A水B
硬度・Ca・Mgラベルの値ラベルの値
香り感じたことを記入感じたことを記入
酸味・苦味・渋味それぞれの印象それぞれの印象
後味・色冷めた後も観察冷めた後も観察
好み理由も一言理由も一言

量をそろえる大切さは、化学分析でも同じです。正確な体積を量る器具に興味が湧いたら、メスフラスコとメスシリンダーの違いも読んでみてください。家庭での飲み比べに実験器具は必要ありませんが、「条件をそろえて比べる」という考え方は共通しています。

ただし、市販水2種類の比較では、硬度以外の成分も同時に変わります。違いを感じても、それをカルシウムだけ、硬度だけの効果と断定することはできません。

よくある疑問

沸騰させれば硬水はすべて軟水になる?

すべてではありません。加熱によって一部の成分が沈殿する場合はありますが、硬度成分がすべて除去されるわけではありません。煮詰めると水が蒸発するため、残った成分が濃くなることもあります。

浄水器を通せば、硬度も必ず下がる?

製品の方式によります。においなどを減らす機能と、カルシウム・マグネシウムを減らす機能は別なので、製品の説明を確認します。浄水前後で味が変わっても、硬度だけが原因とは限りません。

分析用の超純水でいれると、一番おいしい?

分析では成分を極力減らした水が必要な場面がありますが、飲み物では好みや抽出条件も関係します。「純度が高いほど、おいしい」という順位にはなりません。家庭の飲み比べには飲用の水を使いましょう。

RO(逆浸透)水・イオン交換水・超純水の違いや、分析で水の成分にこだわる理由は、化学分析に使う水の選び方で紹介しています。飲み物の水選びと読み比べると、同じ「水」でも、目的によって必要な性質が変わることが分かります。

水の数字を、好みの一杯につなげる

軟水と硬水でコーヒーやお茶の印象が変わるのは、水が成分を溶かす媒体であるだけでなく、抽出された成分と相互作用し、酸の中和にも関わるためです。

ただし硬度は、水の性質の一部を表す数字です。カルシウム・マグネシウム、アルカリ度、豆や茶葉、いれ方を分けて考えると、「いつもの一杯がなぜ違ったのか」を探りやすくなります。次の休日は、水だけを変える小さな比較から始めてみませんか。

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