「天秤は毎年校正しているから、使うたびの確認は不要?」「ICP(誘導結合プラズマ)の検量線を毎回作るなら、装置の点検は不要?」。校正と点検をひとまとめにすると、周期の根拠が曖昧になります。大切なのは、何がずれると結果に影響するかを特定し、その変化を見逃さない間隔で確認することです。

この記事はISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議) 17025の全体像と計量トレーサビリティに続く実務編です。天秤、ピペット、ICP、GC(ガスクロマトグラフィー)・LC(液体クロマトグラフィー)を例に、初期周期の決め方、途中の点検、周期の延長・短縮、逸脱時の影響調査まで整理します。

まず4つを分ける:同じ「校正」と呼ばない

外部・内部の校正、定期的な性能点検、使用前の日常確認、測定系列ごとの検量線を異なる時間軸に並べた図
長い周期の校正と、使用時・測定中の確認を重ねて管理します。

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何をするか主な問い例
計量学的な校正標準と機器の指示値の関係、補正値と不確かさは?天秤の質量範囲、ピペットの吐出量、温度計の指示値
中間点検・性能確認次の校正まで、必要な性能を保っているか?天秤の点検分銅、ピペットの重量法、波長や感度の確認
使用前・日常点検今日この条件で使ってよいか?ゼロ点、点検分銅、漏れ・圧力、ブランクや管理試料
分析の検量線・継続確認この測定系列の応答から試料濃度を求めてよいか?ICPやGC・LCの標準液、継続検量確認、管理試料

検量線も広い意味では測定系の校正ですが、天秤の定期校正や装置部品の性能点検と同じ周期にはできません。装置の応答は測定日の状態やマトリックスで変わるため、測定系列内の確認が必要です。また、メーカーの保守点検は重要ですが、保守を受けただけで必要な測定性能を証明したことにはなりません。Eurachem/CITAC「Quality in Analytical Chemistry」第4版 第23章・附属書B

周期を決める5つの材料

要求性能、ずれやすさ、使用条件、過去の履歴、途中の検知力から初期周期を決める判断図
要求性能から出発し、機器の履歴と途中の点検結果で周期を見直します。
  1. 要求性能:報告値の許容差、判定値との距離、必要な測定不確かさを明確にします。許容幅が狭い仕事ほど、同じ機器のずれが重大になります。
  2. ずれ方:時間とともにドリフトするのか、使用回数で摩耗するのか、突発的な故障が多いのかを調べます。
  3. 使用と環境:使用頻度、温湿度、振動、移動、汚染、操作担当者の習熟度を記録します。
  4. 実績:前回までの校正値、調整前の結果、点検の推移、故障・修理履歴を見ます。
  5. 途中で見つける力:点検する項目、間隔、受入限界、その点検で検出できない故障を確認します。

ILAC-G24:2022/OIML(国際法定計量機関) D 10:2022は、全機器に共通する最良の固定周期はないとし、初期周期をリスクから決め、校正履歴と中間点検で見直す考え方を示しています。規格・試験法・法令・認定機関・顧客契約が周期を指定する場合は、それらの要求を先に確認します。ILAC-G24:2022/OIML D 10:2022 第4~6章

「毎年」が万能な答えではありません。Eurachemの表には天秤やピペットの周期例がありますが、あくまでガイダンスです。同じ型式でも、使用状況と必要精度、直近の性能が違えば最適な間隔は変わります。Eurachem/CITAC 第4版 附属書B 表B1・B2

機器別:何を、どの層で確認する?

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機器定期校正で確認する量使用前・中間点検の例周期を短くする手掛かり
電子天秤使用する質量範囲での指示誤差、必要なら繰返し・偏置荷重ゼロ点、実際の秤量域に近い点検分銅、水平・環境点検値の片寄り、移設、修理、最小秤量域の変更
マイクロピペット実際に使う容量点の吐出量とばらつき漏れ・チップ装着、代表容量の重量法チェックシール交換、落下、高頻度使用、容量域の変更
ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法) / ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)装置・方法に応じた質量軸・波長、導入系や応答の性能立上げ確認、ブランク、標準・管理試料、測定中のドリフト確認感度や内標準回収の変動、保守後、干渉・測定範囲の変更
GC / LC流量、温度、注入量、検出器など結果に効く量漏れ・圧力、保持時間、分離度、応答、繰返し注入保持時間や面積の移動、カラム・部品交換、修理後

この表の確認項目は方法と用途に応じて選ぶ例です。たとえば天秤の点検分銅が一点で合格しても、全秤量範囲の性能が保証されたわけではありません。ピペットも「100 µLで合格」だけで、10 µLでの定量が十分とは限りません。クロマトグラフや分光機器は、測定法に関連する分離、波長・質量軸、ノイズ、応答などを選びます。Eurachem/CITAC 第4版 附属書B

ICPの例:毎回の検量線と、装置点検は役割が違う

ICP-MSで鉛の検量線と管理試料を毎測定系列で確認していても、低濃度域のブランク、質量軸や分解能、導入系の状態など、検量線だけでは見つけにくい問題があります。ICP-OESでも、波長選択やバックグラウンド補正、光学系の性能を方法に応じて監視します。点検項目と頻度は対象元素、濃度、マトリックス、装置の設計を踏まえて定めます。

GC・LCの例:システム適合性と部品の校正は別

対象成分の分離度や保持時間、注入の再現性を各系列で確認することは、結果を採用するための近接したチェックです。一方、流量・温度・注入量などの性能確認は、方法が依存する条件に合わせて計画します。カラム交換やポンプ修理の後は、次の年次点検日を待たず、影響する性能を再確認します。

数字で見る周期の見直し:ピペットの説明用例

100 µLのピペットで、試験所が誤差の管理限界を±2.0 µL、その内側の注意限界を±1.0 µLと事前に決めたとします。ここで示す限界と周期は架空の説明用設定で、製品規格やISO/IEC 17025の共通合否基準ではありません。

ピペット点検の偏りが時間とともに増え、注意限界を超える管理図
合格範囲内でも上昇傾向と注意限界を見て、次の確認を前倒しする例です。

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点検時期100 µLに対する平均誤差その時点の読み方
導入時+0.2 µL基準内。初期値を記録
3か月+0.5 µL基準内。変化の方向を観察
6か月+0.8 µL基準内。ただし増加傾向
9か月+1.1 µL管理限界内だが注意限界超え。点検を前倒しして原因を調査

9か月でまだ±2.0 µL以内だから、校正周期を延ばしてよいとは判断しません。チップ、操作、温度、シール状態を調べ、反復測定のばらつきも確認します。次の定期校正または中間点検を早めるか、使用範囲を制限するかを、結果への影響と合わせて決めます。逆に、複数回の校正で調整前の値が十分安定し、中間点検でも異常がなければ、規定に反しない範囲で延長を検討できます。延長幅に一律の公式はありません。ILAC-G24:2022/OIML D 10:2022 第6章

注意点:校正後に調整した値だけを並べると、調整前のドリフトが隠れます。「as found(調整前)」と「as left(調整後)」を区別し、どの使用期間の結果へ影響し得るかを追えるようにします。

逸脱を見つけたら、前回の合格から調べ直す

点検が不合格のときは、まず機器の使用を止め、測定条件・標準・操作ミスを確認します。故障や性能逸脱が疑われるなら、最後に妥当と確認できた時点から、影響する試料と報告結果を特定します。再測定、結果の訂正、顧客への連絡が必要かを手順に従って判断し、是正後の再点検まで記録します。点検の合否だけでなく、過去の結果への影響評価が重要です。Eurachem/CITAC 第4版 第14章・第23章

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記録に残すもの後から説明できること
機器ID、用途、測定範囲、要求性能なぜ校正・点検が必要か
初期周期の根拠、メーカー・規格・法令・方法の要求なぜその日付か
校正証明書、調整前後の値、補正・不確かさどの性能で使用を許可したか
中間点検の項目、標準、受入限界、推移校正間の変化を見つけられるか
変更・修理・移設、逸脱と影響調査、周期見直しの承認いつ、なぜ周期を変えたか

よくある質問

メーカー推奨の周期なら、そのままでよい?

初期設定の重要な根拠です。ただし、試験法・法令・認定・顧客の要求と、実際の使用量・必要精度・履歴を照合します。より短い周期が必要な場合もあります。延長する場合は、適用される要求を満たしたうえで、校正・中間点検の実績から根拠を残します。

毎日点検すれば、定期校正を省略できる?

通常、単一点の使用前点検は、測定範囲全体の補正値や不確かさを与えません。点検は校正間の異常を早く見つける仕組みです。結果の妥当性や計量トレーサビリティに必要な校正は別に計画します。

校正証明書に「合格」とあれば、周期は自動で延長できる?

できません。合否基準が自施設の用途に合うか、調整前の値とその推移、測定不確かさ、中間点検の結果を見ます。前回までのデータが乏しければ、まず履歴を蓄積します。

まとめ:周期は「何か月か」から決めず、要求性能とずれ方、途中の検知力から決めます。定期校正と日常点検、測定系列の管理を重ね、実績に応じて周期を見直すと、結果の信頼性と運用負荷を両立できます。