GC(ガスクロマトグラフィー)(ガスクロマトグラフィー)では、同じ試料でも何を測りたいかによって適切な導入法が変わります。溶液をそのまま注入する方法、試料から揮発した成分を集める方法、固体を加熱して成分を放出させる方法、材料を熱分解して生じた断片を測る方法があります。

例えば、飲料中の香気成分を調べたいときと、プラスチックのポリマー種を調べたいときでは、GCに入れるべき成分が違います。この記事では9種類の方法について、目的・長所・短所と、選択時に確認すべき点を整理します。

試料の状態と分析目的からGC試料導入法を選ぶ図

まず押さえる:9種類は同じ階層の「注入法」ではない

厳密には、今回の9種類には試料から成分を取り出す前処理と、集めた成分をGCへ入れる操作が混在します。例えば、ダイナミックヘッドスペースで捕集した成分を、熱脱着でGCへ導入することがあります。SPME(固相マイクロ抽出)のファイバーも通常は注入口で加熱脱着します。したがって「ダイナミックヘッドスペースか熱脱着か」という二者択一ではありません。

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方法主に扱う試料・成分使用目的長所短所・注意点
直接注入法GCに適した溶液中の揮発性~半揮発性成分抽出液・標準液をそのまま測る操作が簡単で、検量線を組みやすい溶媒・不揮発成分も注入口へ入り、汚れや過負荷を招く。熱に弱い成分は分解し得る
ヘッドスペース法(静的HS)密封容器内の液体・固体から気相へ移る揮発性成分残留溶媒、香気成分などをマトリックスから分けて測る液体・固体の汚れをGCに持ち込みにくい。前処理が比較的簡単気液・気固分配に左右される。低揮発性成分や低濃度成分には不利な場合がある
ダイナミックヘッドスペース法(DHS)試料から気相へ放出される揮発性・一部半揮発性成分気相を流して捕集材に濃縮し、微量成分を測る静的HSより多くの成分を集められる条件を組める捕集材の選択、破過、水分、捕集時間の管理が必要
パージ&トラップ法(P&T)主に水試料中のパージ可能なVOC(揮発性有機化合物)水中の微量揮発性有機化合物を濃縮する不活性ガスを液中へ通して効率よく追い出せる発泡・水分混入、強く水に溶ける成分の回収不足、トラップの破過に注意
熱脱着法(TD)捕集管・吸着材に保持した揮発性~半揮発性成分空気を採取した吸着管などから成分をGCへ移す溶媒をほぼ使わず濃縮できる。空気中VOCの分析に有用吸着材の選択・保管・破過・脱着効率・キャリーオーバーを確認する
スターバー抽出法(SBSE)液体中の抽出材に分配する有機成分水や飲料中の微量成分を攪拌子の被膜に濃縮する抽出相を比較的大きく取れ、微量分析に有用被膜の種類による選択性、抽出時間・塩濃度・マトリックスの影響。脱着装置または溶媒脱着が必要
熱抽出法樹脂、ゴム、食品などから加熱で放出される成分固体・液体の残留溶媒、臭気成分、添加剤などを取り出す溶媒抽出を省ける場合があり、試料から放出される成分を調べやすい加熱条件で結果が変わる。高温では試料の分解が始まり得る
SPME法液体またはヘッドスペース中の被膜に分配する成分少量の試料から香気成分・VOCなどを濃縮する溶媒が不要で、試料とGCへの導入を自動化しやすい被膜の選択性・容量・平衡時間に左右される。競合吸着やファイバー劣化に注意
熱分解法(Py-GC)ポリマーなどの高分子・不揮発性材料分解生成物のパターンから材料の組成や構造を調べるそのままではGCに入らない高分子を調べられる元の分子をそのまま測る方法ではない。温度・試料量・雰囲気で生成物が変わる

表の読み方: 長所は条件次第で得られる傾向です。検出下限や回収率は成分・試料・装置・条件によって変わるため、方法名だけで一律には比較できません。

1. 液体を直接注入する:直接注入法

直接注入法:溶液を注入口で気化してGCへ送る模式図

溶液をシリンジやオートサンプラーでGC注入口に入れ、気化させる方法です。濃度が高い試料ではスプリット注入、微量成分ではスプリットレス注入などを検討します。抽出液や標準液を測るときの基本形ですが、油分・塩・ポリマーなど不揮発成分の多い試料をそのまま入れると、ライナーやカラムが汚れます。溶媒の種類、注入量、ライナー容量、熱分解・注入口での差別的気化も確認します。

例: 食品から溶媒抽出した香料成分を定量する。抽出液に不揮発成分が残る場合は、精製してから注入する。

2. 容器内の気相を測る:静的ヘッドスペース法

静的ヘッドスペース法:密封バイアルの気相の一部を採取する模式図

密封したバイアルを一定温度・時間で保持し、液体または固体と平衡に近づいた気相の一部をGCへ導入します。試料の主成分を注入口に入れにくいため、医薬品中の残留溶媒、飲料の香気、樹脂の放散成分などに使えます。

得られるピーク面積は試料中濃度だけでなく、バイアル内の気液比、加熱温度、平衡時間、塩添加、マトリックスにも依存します。標準液と試料で条件を合わせ、密栓性と再現性を確認します。低揮発性・極微量成分では、濃縮を伴う方法の方が適することがあります。

3. 気相を流して捕集する:ダイナミックヘッドスペース法

ダイナミックヘッドスペース法:試料の上をガスで掃引し成分を捕集する模式図

試料の上を不活性ガスなどで掃引し、放出された成分を吸着管や低温トラップに集めます。一定量の気相を取り出す静的HSに対し、流した気体から成分を蓄積できるのが特徴です。捕集した成分は熱脱着などでGCへ送ります。

香料、包装材、樹脂製品などの微量放散成分を調べる用途に向きます。ただし長く捕集すれば必ずよいわけではありません。対象成分がトラップを通り抜ける破過、湿気の捕集、試料の乾燥や平衡変化を確認します。

4. 液中にガスを通す:パージ&トラップ法

パージ&トラップ法:液中にガスを吹き込んでVOCを捕集する模式図

水試料などの液中へ不活性ガスを吹き込み、追い出した揮発性成分をトラップに集めてから加熱脱着します。水中VOCの微量分析で使われる代表的な方法です。DHSと原理は近いものの、ガスが試料の上を流れるか、液中を通るかが重要な違いです。

泡立つ試料ではパージが不安定になり、水がトラップやGCへ運ばれる場合があります。また、揮発しにくい成分や強く水に溶ける成分は十分に回収できないことがあります。対象化合物に対する回収率を確認して選びます。

5. 捕集済みの成分を放出する:熱脱着法

熱脱着法:吸着管を加熱して保持成分をGCへ移す模式図

空気を通してVOCを保持した吸着管などを加熱し、保持成分をGCへ導入します。熱脱着は「捕集したものを放出する工程」であり、空気採取、DHS、P&T、SBSEなどの後段にも組み合わせられます。多くの装置では再濃縮・フォーカシングの工程を経て、狭いバンドとしてカラムに導入します。

吸着材は対象物質の沸点・極性・熱安定性に合わせて選びます。空試験、保存中の損失、破過、脱着後の残留、吸着材自身の汚染を確認します。

6. 液体の中で攪拌子に集める:スターバー抽出法

スターバー抽出法:攪拌子の被膜に液中成分を集める模式図

吸着・吸収被膜を持つ攪拌子を液体中で回し、成分を被膜に分配させる方法です。捕集後は熱脱着または溶媒脱着でGCに導入します。水中の臭気物質や飲料の香気など、液体中の微量有機成分に有用です。

被膜の化学的性質に合わない成分は取り込みにくく、抽出量は攪拌時間、温度、塩濃度、試料量、共存成分に左右されます。SPMEと同様、すべての成分を必ず取り尽くす方法ではありません。

7. 試料そのものを加熱する:熱抽出法

熱抽出法:固体試料を加熱して元から存在する成分を放出させる模式図

固体や液体の少量を容器に入れ、目的成分を放出させる温度で加熱し、出てきた揮発性・半揮発性成分をGCへ導入します。樹脂やゴム中の残留溶媒、臭気原因物質、比較的揮発しやすい添加剤などに使えます。装置によって直接GCへ送る構成と、いったん捕集してから熱脱着する構成があります。

ここで重要なのは、測りたいものがもともと試料中に存在した成分かどうかです。加熱しすぎて材料が分解すると、分解生成物が加わります。分析目的に合わせ、温度を段階的に変える予備検討や、加熱後の試料状態の確認が役立ちます。

8. ファイバーに集める:SPME法

SPME法:ファイバー被膜に成分を集め、注入口で脱着する模式図

被膜付きファイバーを試料液中、または密封容器のヘッドスペースに置き、成分を取り込ませます。続いてGC注入口で加熱脱着します。香気分析ではHS-SPME(ヘッドスペース固相マイクロ抽出)、液中の対象成分では直接浸漬SPMEを検討できます。少量・無溶媒で扱える点が魅力です。

被膜によって得意な成分が異なり、抽出時間や温度でピーク比も変わります。高濃度成分による競合、ファイバーの劣化、試料間のキャリーオーバーを確認します。分析値を比較するには、標準と試料で抽出条件をそろえることが欠かせません。

9. 高分子を意図的に分解する:熱分解法

熱分解法:高分子を分解して得た断片をGCで測定する模式図

ポリマーなどを高温で分解し、生成した小分子をGCで分離します。材料由来の分解生成物の組み合わせから、ポリマー種、共重合成分、配合の違いなどを検討します。熱抽出が「放出された元の成分」を狙うのに対し、熱分解は「分解で生じた成分」を情報として使う点が異なります。

同じ材料でも熱分解温度、昇温速度、雰囲気、試料量で生成物の比率が変化します。標準試料と同条件で比較し、ライブラリー一致だけで同定を断定しないことが大切です。添加剤が目的なら、熱分解の前に熱抽出で調べる選択もあります。

目的から選ぶ:5つのシチュエーション

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調べたいこと第一候補選ぶ理由・追加確認
医薬品・樹脂中の残留溶媒静的HS揮発性成分を気相へ分け、重いマトリックスをGCへ入れにくい。低濃度ならDHSも検討
水道水・環境水中の微量VOCP&T液中からVOCを追い出して濃縮。対象物質の回収と水分対策を確認
室内空気中のVOC吸着管採取+TD一定量の空気を採取できる。吸着材と採気量を対象物質に合わせる
飲料の香りの比較HS-SPME、静的HS、DHS少量で香りのプロファイルを見たいか、より多く捕集したいかで選ぶ。抽出条件の統一が重要
プラスチックの異臭と材質を調べる熱抽出+必要に応じてPy-GC異臭原因の放出成分と、ポリマー骨格に由来する分解成分を分けて考える

迷ったときの3つの質問

  1. 知りたいのは元からある低分子か、材料を分解して得る構造情報か。 後者ならPy-GCを検討する。
  2. 試料はGCに直接入れてもよいほどきれいか。 不揮発マトリックスが多ければ気相・抽出相から導入する。
  3. 必要な検出下限を満たせるか。 静的HSや直接注入で不足する場合、捕集・濃縮法を対象成分に合わせて検討する。

方法を決めた後の品質確認

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確認項目特に関係する方法見落とすと起きること
試料・容器・吸着材のブランク全方法汚染を試料由来と誤認する
平衡時間・温度・塩濃度HS、SPME、SBSEピーク面積や成分比がずれる
破過と捕集効率DHS、P&T、吸着管TD対象成分を取り逃がす
水分と発泡P&T、DHS、TD捕集・脱着・クロマトグラムが不安定になる
脱着後の残留・キャリーオーバーTD、SBSE、SPME、熱抽出次試料へ前試料の成分が現れる
熱による変化直接注入、熱抽出、Py-GC分解生成物を元の成分と取り違える

まとめ

GC導入法は、試料の状態・目的成分の揮発性・必要な濃度範囲・許容できるマトリックス負荷から選びます。静的HSは気相を一部採取し、DHSは気相を流して濃縮し、P&Tは液中をパージします。TDは捕集成分をGCに移す工程です。熱抽出は元から存在する放出成分を、熱分解は分解生成物を利用します。方法が決まったら、対象成分ごとに回収率、再現性、検出下限、ブランク、キャリーオーバーを確認してください。

参考資料